第2話


ジュンセside


エレベーターに乗り、下におりてオートロックから出てみると、そこにいたのは5.6歳くらいだろうか?小さな男の子がオートロックの前に立っている。


じっと声をかけずその子の様子を伺っていると、背伸びしながら思いっきりオートロックのボタンに手を伸ばして俺の部屋の番号を押している。


はぁ?なんだよこのチビは…


J「こらこら。ここマンションの子?」


俺がそう声をかけるとその男の子はゆっくりと後ろを振り返り叫んだ。


「あっ!とうちゃんだ〜」


え…?とうちゃん?


思わず俺は自分の周りを見渡して他に人がいないか確認をする。


うん…誰も…いない…


って!!とうちゃんってまさか俺に言ったのか!?


J「えぇ!?俺!?」


「とうちゃん〜!」


そう言ってチビは俺と手を繋ぐ。


いやいやいや!!


俺、お前の父親じゃねぇし!!


J「なぁ…おチビちゃん。ママは?」


「ママ?ママはいない。ちゃあちゃんはいる。」


J「ちゃあちゃん?」


「うん。」


そう言ってカバンからヨイショヨイショと出したのは見覚えのあるモノだった。


J「これ…ちゃあ?」


誰かの手づくりのぬいぐるみだろうか?ふにゃと曲がって口が裂けても上手とはいえない…ちゃあのパチもん。


よりによってちゃあのぬいぐるみとか…最悪だわ。


そう、このぬいぐるみはチアが就職したおもちゃメーカーで発売されたもので「ちゃあ」を作ったのはチアだ。


この「ちゃあ」というキャラクターは世界的にも人気になりいまや、チアもオモチャデザイナーとしては有名人。


「ちゃあちゃん大好き…あいたいよ…」


そう言ってチビはちゃあのパチもんのぬいぐるみを抱きしめて涙をポロポロと流し始めた。


J「ちょ、ちょっと待て!落ち着け…落ちつくんだ…!」


いや、自分が落ち着けよ…ってツッコミながらも俺は焦る一方で1人ワタワタとしている。


えぇ…これはきっとイタズラだな!!


そうだイタズラだ!!うん!!


間違いなくイタズラ!!


子供を使ったストーカーの仕業だな!!


うんうん、きっとそう!!


さっさと警察に連絡しよ。


そう思いポケットに入っているスマホに手を伸ばすと、チビが泣きながらシワの寄った写真を俺に差し出した。


J「こ…これ…なんでお前が…持ってんだよ…」


その写真には付き合っていた当時の幼い俺の頬にキスをするチアの姿が写っていた。


な…なんでこいつがこれ持ってんの…


「ちゃあちゃんに…あいたい…」


そう言って俺を見上げたその目は俺の子供の頃にそっくりで…


思わず俺は固まったまま後退りをした。


「ジュンセ…?」


その声で我に返り後ろを振り返ると、そこには買い物袋を手に持ったチアが立っていた。


C「こんなとこで何やってるの…?」


J「え…あぁ…ここ俺のマンション。」


C「えぇ?ウソ…私もここに住んでるんだけど…」


え…マジかよ…


そんな偶然…


「あ!ちゃあちゃんだ!!」


俺が混乱していると、そう言ってチビはチアの元に駆け寄り、嬉しそうにチアの足元に抱きつく。


俺はチビが持っていたぬいぐるみと写真をチアにバレないように慌ててチビのカバンに突っ込んだ。


C「え……この子…誰……」


J「いや、それが……」


「ちゃあちゃん〜あいたかった〜とうちゃん!ちゃあちゃんだよ!!」


そう言ってチビは俺を父ちゃんと呼び、振り返りながら俺に嬉しそうに手を振っている。


C「父ちゃんって…なに…?こ…この子…ジュンセの…子供なの…?」


J「え!?いや…ち…違うし!!」


「とうちゃんだよ!!ぼくのとうちゃんじゃん!!」


そう言ってチビが俺の元に駆け寄り俺の足にギュッと抱きつくと、チアは驚いた顔をして目を大きく見開き…そのまま…ふらふらと倒れた。


J「チア!!チア!!」


真っ青な顔をしたチアの手は冷たくなっていて、チビは不安で泣きそうになりながらチアの手をずっと握っている。


J「とりあえず、チアを俺の部屋に運ぶからお前は早くママのとこに帰れ!お前に構ってる暇なんてない!」


俺が付け離すようにそういうとチビは悲しそうに俺を見つめて言った。


「…ぼくには…とうちゃんとちゃあちゃんしかいないのに…」


そう言った瞬間…


チビの身体が一瞬、半透明になったような気がして俺は思わず眉間にシワを寄せた。


J「お前…本当に1人でここに来たのか?」


そう言えば無言のまま首を大きく縦に振るチビ。


J「はぁ……分かったよ。とりあえずついて来い。」


チビは俺の言葉を聞いてトタトタと小走りでチアを抱き上げている俺の足元に来て俺を見上げた。


「とうちゃん…だいしゅき…」


小さな手で遠慮気味に俺の服を掴むその手はいつの間にか真っ赤な霜焼けになっていて…


自分の子供でもないのにその姿を見て俺の心がなぜかギュッと締め付けられた。


つづく

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