小さな天使〜遺言〜
樺純
第1話
ジュンセside
止まらない貧乏ゆすりをする俺の横では、久しぶりに集まった友人達に囲まれ、微笑みながら嬉しそうにソウヤさんの話をする…チアがいる。
なんでこうなったのか…俺にも分からない。
俺の知らない間にチアは俳優として有名なソウヤさんと付き合っていた。
俺はどこで何を間違えたのだろう?
そして、なぜ…あの日…
俺はチアに別れを告げられたのだろうか…?
それは俺がソロアーティストとしてデビューして1年と6か月が過ぎた頃の出来事だった。
「ジュンセ…別れよ。」
その言葉だけを残してチアは俺の元を去った。
どんなに引き止めても、どんなに泣きついて縋り付いてもチアは俺のことを見る事なくその場を後にし姿を消した。
スマホの番号も変え部屋も引っ越し…
他の友人達にチアの居場所を聞いても誰一人として教えてくれる人は居なかった。
そして、約6年の月日が経った今日…
飲み会をしよう。そう言ってミナグに誘われて来た居酒屋には笑顔で楽しそうなチアが座っていた。
M「チア?ジュンセを連れてきたよ。お前ら会うの久しぶりだろ?」
俺の心は未だかさぶたにすらなっておらず、チアの顔を見るだけでヒリヒリと痛みまるで、傷口に塩を塗られてる気分だった。
C「久しぶりだね?仕事も順調そうだね?」
ソロアーティストとしてデビューしてもうすぐ8年。
チアも元々は俺と同じ事務所の練習生だった。
しかし、チアは俺と別れ、事務所を辞め…
オモチャメーカーに就職したと後になって俺はミナグから知らされた。
チアは1番辛かった練習生時代を俺のそばで支えてくれた人であり、俺に1番深い心の傷を負わせた人。
そして、チアと別れたあの日から俺が作る歌は全て失恋の暗い歌ばかりになり…
不思議とその曲たちが評価され今では歌手としてそれなりの立ち位置につけるようになった。
J「お久しぶりです。おかげさまで…」
そう敬語で言ったのは練習生の時からのくせ。
付き合う前から2歳上だったチアは敬語なんて使わないでっていつも言ってたけど、俺は付き合ってからも敬語のくせがずっと抜けずにいた。
C「元気そうで安心したわ。」
そう言って優しく微笑んだその顔はやっぱり俺の大好きなチアの顔で…
今、それがソウヤさんの物なんだと思ったら…
張り付いた笑顔の裏で気が狂いそうだった。
J「まぁそこそこ…」
M「そういえばチアなんか大切な報告があるんだろ?なに?」
C「うん。」
それを聞いた瞬間、無駄に勘が良すぎる自分自身を俺は恨んだ。
C「私ね、ソウヤさんと結婚するの。」
出てくる言葉が大体、想像できていたはずなのにまるで鈍器で頭を殴られ真っ二つに割れた気分だった。
J「お…おめでとうございます…」
絞りだすようにしてやっと出たその言葉。
C「ありがとう。」
そう微笑んでるチアは俺を見つめているのに、頭の中ではソウヤさんを思い浮かべているのだろうか…?
J「すいません…俺明日、引っ越しなんで先帰りますね。」
そして、俺は情けないことにチアに背中を向け逃げるようにその場を後にした。
疲れた…
小一時間ほどしかあの場にいなかったのに物凄い疲労感と倦怠感に包まれた。
結局、タクシーで家に帰った俺は中途半端なままだった引っ越し作業をそれなりに終わらせるとあとの作業は業者に任せることにし、そのままベッドに横になるとすぐに眠りに落ちた。
次の日
業者に荷物を頼み俺は引っ越し先のマンションに先に向かった。
チア…ソウヤさんと結婚式とかすんのかな…?そりゃするよな…
まだ、何も荷物の届いていないガランとしたマンションの部屋をぼーっと眺めながらそんな事を思った。
業者がマンションに着き次々と荷物を運んで作業をしていき、俺はほとんど指示を出すだけで済んだ。
「では、こちらにサインをお願いします!」
作業確認の書類にサインをして業者は帰ってきて行き俺の引っ越しは完了した。
このマンションのセキュリティーは万全でワンフロアに2部屋しかない高級マンション。
そういえばお隣さんどんな人かな?
今時、挨拶なんて行かなくていいよな…そう思い、俺は残りのオフをゆっくり過ごすため好きな音楽を流してリラックスした時間を過ごしていた。
すると
ピンポーン
突然、インターホンが鳴り不思議に思いながら画面を見る。
ん?
誰も…
いない?
引っ越し早々…イタズラ?
そう思い無視していると…
ピンポーン
また、インターホンが鳴った。
俺はまた、画面を見るが…誰も写っていない。
え?これ…壊れてる?
不思議に思い俺は横にあったキャップを目深にかぶり上着を羽織って玄関を出た。
つづく
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