第3話

ジュンセside


震えて真っ青な顔のチアをベッドに寝かせゆっくりと布団をかぶせた。


チビは扉の所から顔だけ覗かせて、俺たちを不安そうな目で見ている。


J「大丈夫だよ。」


そうチビに言えばチビは小さく頷いた。


すると、チアが眉間にシワを寄せてうわ言を呟いてうなされている。


俺はそっとチアの口元に耳を寄せそのうわ言に耳を傾ける。


T「ごめん……ごめんね…ちゃあちゃんのせいで…ごめん…」


ちゃあちゃん…?


そう言えばさっきこのチビもチアのことを見てちぁあちゃんと言っていて、チアに飛びついたような気がする…


もしかして、チビとチアは知り合いなのか?


J「チア…チア…」


あまりにも苦しそうにうなされているのでチアの名前を呼ぶと、チアはバチッといきなり目を開けて飛び起きた。


C「はぁ…はぁ…はぁ……」


J「大丈夫ですか?悪い夢でも……」


C「キミは一体…誰なの?」


チアは扉から覗くチビをじーっとみつめて言った。


「ぼくは……とうちゃんとちゃあちゃんの"宝物"って…ちゃあちゃんが言ったのに…」


チビがそう言えばチアは震えて涙をポロポロと流す。


チアがじっとチビを見たまま涙を流していると、チビはトタトタと走ってきてピョンとベッドに飛び乗った。


「ちゃあちゃん…ぼくのこと…わすれちゃった?」


チビがチアの顔を覗き込むその顔は俺自身が見ても…俺の子供の頃にそっくりで…ドキッとした。


C「忘れ…た…?」


「ずっといっしょにいたかったんだ…とうちゃんとちゃあちゃんとずーっといっしょ!!」


そして、チビは口を尖らせると拗ねてそのままベッドに寝転がった。


チアの知り合いの子かと思ったけど…違ったのか…?


そろそろ、本気でコイツをどうするか考えないとな…。


警察に連れていくか…?


俺はチビを見つめながらそう考える。


C「坊や…ごめんね。ちょっとだけジュンセとお話しがあるから…部屋の外で待っててくれるかな?」


「うん!!わかったぁ!!」


チビはとてもいいお返事をしてまた、トタトタと走って部屋から出て行った。


チアはチビが出て行ったのを見計らい話し始めた。


C「あの子…本当にジュンセの子?」


J「ま…まさか!俺も誰だか分かりませんけど…とりあえず警察に連絡してあいつを保護してもら…」


C「ダメ!!そんな事したら絶対ダメ!!」


チアは俺が手にしたスマホを取り上げた。


J「なに言ってるんですか?警察に連絡しなきゃもし、あいつが迷子だったらどうすんですか?もしかしたら、悪質なイタズラかもしれないし!それともチアがあいつの面倒みるとでも言うんですか?俺はごめんですね。誰の子かも分からない子供の面倒みるのは絶対無理!!」


C「そんな事言ったって!あの子を警察に連れて行けばあの子はジュンセを父ちゃんだって言うんだよ?そんな事になったら色々調べられててジュンセの過去まで世の中にバレてしまうかもしれないのよ!?」


J「俺の過去ってなんだよ…そんなに俺と付き合ってた事世間にバレるのが嫌かよ?そりゃ、そうだよな?一流俳優のソウヤさんとの結婚が決まったばっかでソウヤさんと同じ業界にいる俺なんかとの過去がメディアにバレたら面倒だもんな!?」


C「そういことじゃなくてぇ!!」


ガチャン!!!!


俺たちの激しい口論は玄関の扉が閉まる大きな音で止まった。


え…まさか…


俺が慌ててベッドルームを出ると、リビングにいたはずのチビがいなくなっていて、そこにはチビの荷物だけがポツンと置いてあった。


C「え…あの子は…」


J「出て行ったかも…」


C「え……」


俺が玄関に行くとチアも俺の後ろをついてきて靴を確認する…


すると、そこにあるはずのチビの靴がなかった。


C「…は…早く追いかけなきゃ!」


チアが俺を追い越すようにして慌てて靴をはく。


J「もう…いいんじゃないですか。」


俺は焦るチアの背中にそう呟いた。


C「え?」


J「きっと家に帰ったんですよ。」


俺がそう言うとチアは今まで見たことのないような怖い顔をして思いっきり俺の頬を叩いた。


C「あんな小さい子1人で帰れるわけないでしょ!?ジュンセは自分のことを父ちゃんって呼ぶあの子のこと放っておけるの!?もしもの事があっても…ジュンセは平気なの!?………アンタと別れて…正解だったよ…!!」


チアはそう言って部屋を飛び出して行った。


じゃ、俺にどうしろって言うんだよ…


俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。


あの日もそうだった。


チアは一方的に俺と別れると言って俺を1人、冷たい玄関に置いて消えて行った。


あの時はまだ、隙間風がすごいボロアパートだったのに、気づけば大理石の冷たさが身に染みる高級マンションになっていた。


周りは変わっていくのに俺だけがあの時から何も変わらない。


いや、チアと別れてから俺の中で時が止まってしまったんだ。


俺はずっと過去に囚われこのままこうやって生きていくのだろうか……?


J「はぁ……もうなんだよマジで…!!!!」


俺は立ち上がりキャップを目深にかぶり直しチアの背中を追うように玄関を飛び出した。


つづく

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