第95話 決意は彼女も





 *・*・*







 玉蘭ぎょくらんは決めていた。


 自分の成すべき事を。


 孫の恋花れんかが自分の生き甲斐を見つけ、伴侶となる存在を得た今だからこそ、決めた事があった。



(あたしが、あたしらしく生きていくために)



 十年も眠りにつき、目覚めることが出来た今だから……己が出来る事を精一杯やっていこう。


 その目標を、今からやって来る恋花だけでなく紅狼こうろうはどう受け止めてくれるだろうか。きっと驚くだけで終わらないだろう。


 先に知らせておいた趙彗ちょうけいはにこにこ笑っているだけだったが。



「決められた事を素直にお伝えすれば良いのすよ」

「……そんな悲痛そうな顔してたかい?」

「ええ。……孫を持つ身は私も同じ。よくわかりますとも」

「……あの子はあの子らしい道を見つけたから、さ」



 眠りの狭間から、恋花の生活はずっと見てきた。りょうを玉蘭に仕立て上げ、身体は地下に眠らせ……魂を癒していたが。その時間が、どうしても必要だった。娘や婿を失い、一人で恋花を育てる事も不可能ではなかったが。


『先読み』が宿主を変えると決めた兆しもあったため、いっそのこととあのような手段を選んだ。恋花が必要以上に悲しむことになっても。


 それほど、『先読み』は根付く宿主を変える機会を逐一窺う存在なのだ。生半可な覚悟で、幼い子どもに根付かせるわけにはいかないのだ。


 今は完全に恋花へ移ったその能力……玉蘭には先の世を視ることはもう出来ないが。


 夢路を通じて、最後に視た光景は実現させたい。


 それを伝えるのに、あの子達の九十九に頼んで今呼びに行ってもらったが、程なくして二人がやってきた。並んで立っている孫とその婿候補は、こちらが照れるくらい仲睦まじい雰囲気を醸し出していた。



奶奶ナイナイ、話って?」



 今から伝えることに、孫はどう受け入れてくれるだろうか。呆れるだろうか、それとも泣いてしまうだろうか。


 どちらにしても、玉蘭は決めた事を告げるのに口を開けた。



「……旅に出るよ。恋花」



 九十九の繋がりが薄くなる予言を受けたのは、恋花だけではない。恋花に宿る前の『先読み』から玉蘭も知っていたことだ。


 そして、いつか旅に出る予告もされていた。それを今、ひとりの家族である孫にきちんと告げる機会だったのだ。

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