第91話 足りないもの①
*・*・*
目を開けたら、知らない天井が見えた。詰め所の寝台の上でもあの家の粗末ものでもない。首を横に向けると寝台がいくつか並んでいる部屋で、診療所のように思えた。
『……目が覚めたか』
「うん。あの……他の皆様は?
『ゆっくり答えてやる。……痛みなどはないか?』
「……うん。大丈夫」
すぐに聞きたいことがあったが、順に答えてくれるのと宿主の労り方に安心が出来た。
身体の痛みは全然ないが、まだ横になった方がいいと言われてゆっくり寝台に身体を預けた。
『まず皇帝らだが、お前よりも先に目覚めて今各所へ指示を出している。あの
「……そう」
『無し』としてしばらく育った恋花ですら、彼らの絆は確かにあるものだと理解しているのだから。
『次に
「……そうなの?」
『ああ。恋花に足りないものがまだあるから……身体の覚醒が整わないと言っていた』
「足りない? じゃあ、奶奶はあのままあのお部屋に?」
『秘密を知る者として、
「……今じゃダメなの?」
『まだ魂の循環が危うい。もうひと眠り出来るならした方がいいぞ』
「……うん」
たしかに、まだ身体の疲れが強くのしかかっていたので……目を閉じたら、また眠りの底に行くことが出来たのだった。
そして、もう一度目を開けたと思ったら……そこは白い空間の中。奥には、誰かが一生懸命何かを作っている様子が見えた。
恋花はゆっくりと近づいてみると、聞いたことのあるような声が耳に届いた。
『んー。あと少し……よし、出来た』
ほわんとした音も混じっていたが、それは恋花そっくりの声だった。
その少女らしい人物は、いきなりこちらに振り返ると……とても明るい笑顔で恋花を見てきた。恋花にそっくりで、まぶしいくらいの笑顔そのままで。
『はじめまして、過去の私』
『……過去?』
では、この恋花そっくりの少女は恋花の未来そのものだというのだろうか。うまく言葉を飲み込めず、頭の中が混乱しそうになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます