第89話 根源を断つ
『……いちゃついているとこ悪いんだが、俺を忘れるなよ?』
後ろの方から、皇帝の
『……陛下』
『…………俺も全部思い出せた。昔みてぇには呼んでくれないか?』
『そ……れは、畏れ多いことです』
紅狼ですら、あの呼び方が恥ずかしくて出来ない。さらに斗亜は現皇帝なので、尚更無理過ぎる。
それをわかってか、苦笑いになった斗亜は
『まあ、今は仕方ない。……で、諸悪の根源はまだこの記憶に根付いているのか』
斗亜が振り向いた先には、おどろおどろしい『何か』が蠢いていた。あれには見覚えがある。今さっき、記憶の中で斗亜らが対処しようとして、負けた存在そのものと同じだった。
『……恋花は下がれ』
『今の俺らは昔と違う!』
紅狼と斗亜が立ち向かおうとしたが、恋花がいつの間にか手にあったものを見て慌てて二人の服を掴んで止めた。
『『どうした?』』
『……これを、使ってください』
手には、あんぱんがあった。紅狼に渡したものと同じ小ぶりの
恋花の麺麭には邪気を祓える力が宿っているのだから。
それを二人にもわかってもらえたのか、紅狼が受け取ってくれた。
『……ありがたく使わせてもらう』
そして、すぐに勢いよく投げつければ……蠢いていた存在が聞き取りにくい悲鳴のようなものを上げ、苦しそうに上下左右に身体をくねらせた。
その隙をつくように、紅狼らが腰に佩いてた剣を構えて突っ切った。
斬られた存在は煙を吹き、どんどんどんどん縮んでいって……やがて塵も何も残らず消えていったのだ。
『……終わったか』
『だな! さっすが、俺らの妹分の麺麭だ。めちゃくちゃ効くな!!』
『……今は俺のだ』
『わーったわーったって。凄むな、怖い!』
ひと段落出来たあとの会話が、まるで本当に昔と同じで。
懐かしいけれど、違うものはいくつかある。恋花の両親は、殺されたことで二度と帰ってこないと言う真実だ。その悲しさが込み上げてきて、恋花は静かに泣いてしまう。
気づいた紅狼がまた抱きしめてくれて、ゆっくりと背をさすってくれた。
『今は俺だけではない。斗亜や
『……はい』
『あいつらが迎えに来てくれたぜ?』
斗亜が剣を向けた先には、それぞれの
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