第86話 記憶の中で①
『こーにぃ、だっこー!』
『いいぞ、
恋花らしい少女が、年若い
幼い恋花の願いをすぐに受け入れ、本当に嬉しそうに抱き上げてやった。後の皇帝らしい
『恋花は今こーにぃにだっこだもん!』
『そうだ。俺が受けたんだ』
『ずっりぃ!? 仲良し二人ずるい!!』
『お前には緑玲がいるだろう?』
『……そーだけどぉ。妹分を可愛がってもいいだろ?』
『とーにぃはあとぉ』
『恋花ぁ』
仲の良いやり取りに、こんな時間が本当に過去にあったのか信じがたい気持ちだ。
九十九を介して、と気を失う前に聞こえた気がしたが……
まだ意識が浮上する気配がないので眺めていると、幼い恋花や紅狼の胸の辺りが小さく光を灯し……それぞれの九十九である梁らが出てきたのだ。
『久しいな、紅狼。恋花はそなたが来るのを心待ちにしていた』
『……紅狼も恋花に会いたがっていたな』
『こーにぃ、いっしょ!』
『ああ……いっしょだ』
『俺総無視かよ!?』
『斗亜はいつも不憫だな』
『であるな』
『くっそぉ!?』
梁も紅狼と斗亜に会うのが初めてではない。だとしたら、この後の記憶に関係していると言うのだろうか。その先を見てみたいと見守っていると、奥の方から何かが物凄い勢いで飛んできて、斗亜の後頭部に直撃した。
『うるさいね!? 陛下んとこの糞坊主!?』
『イッテェ!?』
『ちょ、母さん!?』
『……お義母さん。相変わらずね』
大きな声とともに家の中から出てきたのは、封印されていた身体の年齢と同じ年頃の玉蘭だった。怒っているのか、苛立ちの表情がよく表れていた。
『来るたんびに、恋花を構いたがるのはいいが……恋花は紅狼の方がいいんだろ? それを無理矢理引き剥がすのは止めな!』
『……だからって、炭飛ばすなよ。玉蘭!』
『まだ炭でいいだろう? 皇太子任命前の糞坊主が』
『ひでぇ!?』
『んで? 久しぶりの来訪かと思えば……なんか引き連れてきたのか?』
『……御名答』
斗亜の表情もだが、紅狼の表情も真剣なものになると……恋花を梁に預けて前方を見れば。
黒ずんだ霊体のようなものが、湧き出るように出現した。その黒ずんだ淀みが、恋花が後宮の中で視たあの女性と同じものだと感じた。
(ここから……どうなるの?)
玉蘭が自分で封印をかけたとか、両親はほんとうは病死ではないのとか。様々な考察が頭の中を巡るがこの記憶の中で、恋花は
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