第84話 真実とは①





 *・*・*







 玉蘭ぎょくらんの身体がいきなり光に包まれた。


 りょうは宿主の恋花れんかに何があってからでは遅いと本能的に体が動き、彼女の前に立って印を組んだ。紅狼こうろうももちろん動いていたが、宿主と密接的な繋がりであるのは九十九つくもの方が強い。でなければ、呪に触れて連動するように死ぬ事態も起きないからだ。


 皇帝や趙彗ちょうけいの九十九も同じように動いてからしばらく。光が強くなると、それが形を変えて玉蘭の形となったのだ。



「……奶奶ナイナイ?」



 恋花だけが呼べる呼称が彼女の口から聞こえると、それが伝わったのか玉蘭は苦笑いした。



『……本当に。こんなとこに来てまで巻き込まれるだなんて』



 呪を祓った時とは違い、言葉を口にした。そのことに居合わせた全員が驚いたが、一番驚いている恋花は少し前に出て再び玉蘭を呼んだ。



「……奶奶なの?」

『そうさ、恋花。梁じゃあないさ、あたしが本物のあんたの奶奶さ』

「……どうして?」

『うん?』

「……どうして、今出てきたの……?」



 恋花の問いかけももっともだ。長い時間を梁が化けていた玉蘭と過ごしてはいたが、九十九が『無し』に生活を虐げられ、周囲には特に蔑まされていた。それが一変した今の生活は恋花に心のシコリを溶かすことが出来たものの、まだ奥底では納得していない部分があるのだろう。


 それに引き寄せられるように、玉蘭が今の姿で覚醒したのだから……まだまだ信じがたい気持ちもある。梁も、似た気持ちを持って玉蘭を改めて見たが。


 封印されていた身体と同じ世代の霊体のようなものか。年は老婆よりも十年ほど若く、梁が化けていた年頃ではない。となれば、いつからこのように封じてあったのだろう。梁の記憶には、強く呼び起こそうにも何も残っていなかった。



『……あんたを守るためだったんだよ。恋花』



 静かに、だが責める気持ちのない優しい声音だった。恋花を見れば、少しずつ涙を流していたが嗚咽などは出ていない。



「……守る?」

『そうさ。あんたの先読みは、実はあたしの持ってた能力。それを移すために、この身体の時間を止めて封印するしかなかった。あんたの身体に馴染ませるために』

「……待て、玉蘭。では、此度の襲撃などはすべて知っていたのか!?」



 皇帝が割って入ると、玉蘭は何故か首を左右に振った。



『いいえ、違います。此度の襲撃の前に……先読みは九十九のように、宿主を選ぶ不可思議な能力なのですよ。こう家に秘匿とされていた術のようなもの……次世代が、恋花だったためにその儀式をしていたまで。この子が生まれた時から、あたしは己の身体を封じて転移させてたのです』

『では、我が恋花から離れ……そなたの代わりをしていたのは』

『黄家では不思議じゃない儀式だが、家を出たあたしは次世代が出来ると思っていなかった。だから……あんたを少し利用させてもらったんだ……その後の事について、何も助けられなかったのは申し訳ないが』



 なら何故、今になって目覚めようとしたのか。先読みは恋花の身体には充分に馴染んでいるはず。麺麭パン作りも、襲撃事件への対処などにも役に立っただけで済まない。


 その功績はかけがえのないものとなったが、恋花は十六歳だ。十六年も、自身を封じてまで転移するのに時間を必要とするのか。玉蘭以外、誰もがその疑問にぶつかっただろう。


 それをわかってか、玉蘭は紅狼の方に何故か振り返った。



『理由のひとつは、そこの坊主がうちに来たことで変わった』

「……俺が? ですか?」



 表面上の異物が無くなった紅狼は誰もが羨む美丈夫となったが、その呪眼は呪の一部だったので後天的にかけられたと言うこと。


 であれば、玉蘭が封印を解かない理由が明らかになるのだろう。

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