第13話 仇討ち
「……ふざけた輩だ」
「そんなに怒らなくてもよくない?」
俺の登場にひどくご立腹な様子の人語を介する妖魔。世の中はなにがあるかわからないんだからこんなことに怒ってもいいことなんてないというのに、などと言ってみても聞き入れやしないだろう。
そう考えつつ炎嬢を抱きかかえ、壁に背をつけてもたれかけさせる。パッと見たところ決して軽くはない傷がいくつも見受けられる。
ぐるり、と視線を変えてもう一度妖魔に向ける。まぁ見るからに癇癪をおこしやすそうなタイプの女だし、まともに取り合う必要もないだろう。そんなことより聞きたいことがある。
「お前が葉山を殺したのか」
「葉山……?」
「今朝の事件の被害者だよ」
「ああ。そうヨ、この身体の慣らし運転ノため」
に、と言いかけていたところでその顔面に拳を喰らわせる。
そして追撃に前蹴りをその鳩尾に見舞ってやり、バランスが崩れたところを右腕を掴み関節とは真逆の方へへし折ってやる。
そこから手を離し、回し蹴り。サソリ女は転がって衝撃を逃したが、その表情には驚愕の色が見て取れた。
「貴様……!」
睨みつけてくるが、何一つ怖くない。へし折った腕は即座に治っていくようで、回復力は目を見張るものがあったが想定外なんて想定内。
どうにもこうにも……ここまでキレてるのは久しぶりかもしれん。
「正直さ、なんであんたが化け物になったとかは全く興味がない。けどさ……その『過程』に俺はむかついてんだわ」
その『過程』に対してこのサソリ女は慣らし運転と抜かした。
「もしあんたがここから本気で改心して更生したとして、今後その力を多くの人のために使い人を助けるとしよう。
それでお前は周囲から許されたとしよう。
だが俺には関係ない。俺は友達を殺した奴を許す気なんざない」
本気で殺す。
復讐は何も生み出さないなどと言うが、そんなことはない。
「サソリ女、お前は確実に俺が殺す」
「不意打ちが成功シたくらいでイキがるなよ! その女ヲ倒した今、私に勝てル人間などいない!」
「は、粋がってるのはお前だろうが!」
力を手に入れてつけ上がっているだけの、醜いただの化け物だ。
互いに言いたいことを言って、殺し合いが始まった。
真正面からの拳とハサミがぶつかり合い、俺の拳はハサミを叩き折った。
「何!?」
小山の驚愕を隠せない声が漏れる。いくら炎と一戦を交えた後とはいえたやすくハサミを砕かれるなどと露とも思っていなかった。
そんなことをお構いなしに龍臥はそのまま掌底で顎を打ち抜き、流れるように中国拳法の要領で肘打ちから頭突き。
勢いに押され後退を余儀なくされ、その隙を逃さず容赦なく右目を親指で抉りにいく。ブチュリ、という眼球を潰した不快な感触が伝うが、構わずさらに奥へ押し込もうとする。
「ふざけるナぁ!」
反撃の尻尾による一撃が肩の装甲に直撃し、その反動で下がるものの龍臥は間髪いれずに再度前に出る。愚直すぎるほどにまっすぐに攻撃をしてくるその姿勢は小山に悪寒を走らせるには十分だった。
そして一方、同行していた千代も気絶している炎をビルの部屋に避難させて現状を見て驚愕していた。
(小山さんが妖魔になっていることも驚きですが……主人様の気迫が凄まじい)
「無理やりお供してきましたが……私の助力は、必要なさそうですね」
それほどまでに今の龍臥は強く千代の目に映った。
軽装型のように見える装甲も、その実分厚く小山は決定打を与えられていない。
「どうした口先だけかサソリ女ぁ!」
「なん、なンだ貴様ハ!? イレギュラーすぎル!」
(しかし、なぜ……)
二人の交戦を見つつ、千代と小山に疑問が生じる。妖魔を知っているのは驚くことではない。
なぜなら初の邂逅自体が妖魔と戦っているところだったのだから。
だが、今回はそうではない。
千代も、それどころか炎でさえ『人が妖魔になる』という事態に遭遇したことがないのだ。
だというのに龍臥はそれに困惑するどころか、それすらも存在していて当然だとでも言うようにためらいがない。
(くそ、ただのバカか!? だとシたら私の毒は意味がない!)
小山の毒性は思考力を鈍らせ、遅効性の麻痺を与える毒。
思考を複雑にする炎のようなタイプには効果的面だ。だが直情的にまっすぐにしているタイプには実質遅効性の麻痺しか意味をなさないが、この場面では効果が薄い。否、正しくはこの目の前の男は精神が肉体を凌駕している。
そんな彼女の内心を知らずに、ただ龍臥は思いのままに拳をふるう。反撃に対しても装甲のつく場所で受け止めつつ猛進する。
その姿はさながら……暴虐の限りを尽くす獣のようだった。
(目はもう再生しはじめている。が、この勝負は……)
「主人様の勝ちですね」
すでに小山は呑まれている。
炎を倒して有頂天になっていたところ、想定外の奇襲。
真正面から拳で爪を破壊され、完全に精神の優位性は奪われた。
再生するとは言え目を抉り出された上、完全に格下とみなした存在にほぼ一方的に攻撃される屈辱。
「なんで、なノ! 私は強クなったの二、お前みたいなぽっとでノ不躾者にィ! 何故ダァ!?」
その言葉と同時に尻尾を全身全霊で龍臥の頭へ突き出す。
だがその攻撃はまさに紙一重でかわされ、懐に入られた。
「五月蝿い」
その龍臥の一言ともに頭を掴まれ、間もなく脊髄ごと首を引き抜かれ、首から下の身体は消滅した。
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