第103話 止めろ……!

 鎧兵だ。三体はいる。


 私たちのいる広めの空間から前後左右に道が伸びていて、その先もそれぞれ枝分かれしている。

 行き止まりでないことはよかったが、囲まれるかもしれない。

 嫌な予感は現実になる。


「右からも蜘蛛が!」

「神鏑木、犀井頭さいとう、鎧を熱せ! 本田、蜘蛛を!」


 富久澄さんが新手を見つけて、獅子戸さんは即座に指示を飛ばした。


「ふさぎます!」


 私は魔法のステッキを一振り、右の通路をピッタリとふさいだ。だが、蜘蛛は壁から染み出してきたし、私の氷で大丈夫だろうか。


 その間にも、練くんと犀井頭さんが富久澄さんの『増幅』を受けて、二倍の火炎放射を鎧兵に吹き付けている。


 次は私が冷やす番。だが、この氷壁も気になる。


「地念寺、本田と代われ!」


 気づいた獅子戸さんが交代を命じてくれた。

 タイミングを合わせて地念ちゃんと位置を替える。


 前方へ移動しつつ他の人にも注意を向けたら、琉夏ルカくんが、手持ちのカメラで撮影に勤しむ大地くんに耳打ちをしていた。


「仕込みじゃないのかよ……!」

「いや、なんか違うんだって。途中からマジだったらしいよ。俺もよく知らんけど」

「は? 結城は? あいつ肝心なところで役立たないよな……」


 ええー! この状況でそんな話?

 やる気がないにもほどがある!


 驚いてる暇もないので私は前線に躍り出た。

 さっきまで地念ちゃんが押し留めていた鎧兵が、炎を浴びながら前進してきている。


「おっさん!」

「はい!」


 練くんの合図で、私はステッキを突き出した。

 一瞬で鎧兵が猛吹雪に包まれて見えなくなる。


「え? 魔法少女?」


 って、犀井頭さんがつぶやいた気がするけど気にしない!


 炎コンビは蜘蛛の対処へ。地念ちゃんと交代するのだ。忙しないが、この作戦中は仕方がない。対鎧兵にはこれしかない。

 彼が来るまでは止めておかなくちゃ。


「もっと……」


 もっと、フリューズみたいに力強く、カッチカチのコッチコチにして破壊できたらいいのに!


「九時の方向!」

 地念ちゃんだ。


 肩越しに確認すれば、腕を広げて左右の敵を押し留める彼の姿が。

 ここからではよく見えないが、蜘蛛だろう。


 練くんと犀井頭さんが燃やしているが、多勢に無勢か。

 特に犀井頭さんでは火力が足りないようだ。


 富久澄さんが彼女を後ろから支えて増幅しているが、小さな火の玉を絶え間なく放つのは大変そうで、苦戦している。


 視線を正面に戻せば、吹雪の向こうの鎧兵が増えているような…… 


 だめだ。ここはふさいで後方支援に行った方が……


 私は吹雪を一気に凍らせ分厚い氷壁を作った。

 その時だ。

 すぐ横の壁から、またしても大量の蜘蛛が飛び出してきたのだ。


「わ!」


 あまりの近さに魔法を発動するどころではない。

 ところが、蜘蛛は私の目と鼻の先で見えない壁にぶつかっている。

 うごうごと蠢く脚を見て悟った。


「地念ちゃん!」


 彼はこちらを見る間もなく、前後左右に気を張りながら、モグラ叩きのように素早く敵を取り押さえていた。


 その機敏さ、すごい!


 っていうか能力者なのに暇してる人が二人もいませんか!?


 青木さんが獅子戸さんに守られながらビビってるのは仕方ないけど、琉夏くんまで彼女の袖にしがみついてるのは違うんじゃないか!?


「すっげー!」

 って大地くんも、完全他人事で地念ちゃんのアップとか撮影してるし!


「か、か……」

と、地念ちゃんは食いしばった歯の奥から言葉を絞り出している。


「え?」

と、一歩近づく大地くん。


「カメラを……、止めろ……! 手伝え……!」

「あ! すいません!」


 大地くんは大慌てでカメラを宙に浮かべ、空いた両手をぶんぶん振って蜘蛛を払いのけはじめた。片側の通路は彼一人でなんとかなるようだ。


「地念寺、鎧! 富久澄!」

「はい!」


 返事をしながら地念ちゃんは走り出した。

 犀井頭さんの後ろにいた富久澄さんの手を取って、移動しながら見えない拳が氷壁に一撃。ヒビが入り、鎧兵も暴れ出している。


「本田! 後方へ」

「行きます!」


 獅子戸さんの指示よりも早く、私は蜘蛛の対処へ動き出していた。

 左通路は大地くんの念動力で捉え、練くんと犀井頭さんの炎で消滅。

 右通路は私の氷で足止め。

 なんとかなりそうだ。


 ガシャーーーーン!!


 轟音。と共に、前方の氷壁が砕け散る。二度、三度と、見えない拳が鎧兵を殴り潰していく。


 獅子戸さんが状況確認に走り、素早くこちらに手を上げた。

「本田、全てふさげ! いくぞ!」


 鎧兵のいる方が正解だろう。


 蜘蛛を足止めするために他の道を氷で埋めながら、私たちは前方の道へ走った。


 でもなぜだろう。胸騒ぎがする。

 なんだか誘い込まれているように思えるのは、気のせいだろうか……


 いや、考えすぎか。

 犀井頭さん、大地くん、琉夏くんの三人とは合流できたじゃないか。


 そう思って、はたと嫌な思いが去来した。


 むしろ、合流させるのが目的だとしたら……?


 フリューズは「恐怖が大蜘蛛の力になる」と言っていた。

 配信班を分断することで十分にパワーチャージできたということか?

 そして今度は、集めて一網打尽に……?

 だいたい、傀儡の大蜘蛛はどこに……


 私は自分の考えを頭から振り落とそうとした。

 今はまだ、想像の域を出ない。

 それに、合流できれば、あとは倒すだけだ。


 

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