第4章 炎の皇帝討伐へ
第75話 Bルートを進みます
横穴からダンジョンの中へ入っていくと、先導するダイバーさんがすぐに浮上の合図を送ってきた。
ゆっくりと上へ。水面に出る。
そこは前回の千葉中央ダンジョンよりも暗く、海中に出現しただけあって湿っているようだった。
「す、水圧どうなってるんでしょうね……」
と、地念ちゃんは震える声で言いながら、促されるままに接岸していく。
確かに水深四十メートルから浮上する時は、時間をかけて減圧すると聞いたけれど……
私たち、さらっと海面じゃないですか……
なんとなく、疑問を持ったらそこで何かが終わってしまいそうな気がして、私はあらん限りの太鼓持ちおじさんパワーを発揮した。
「いやいや、地念ちゃん。ダンジョンだよ。水圧なんて」
あははは……とカラ笑いすると、彼も「ですよね……」と答えた。力ない声色だけど、正気に戻ったらおしまいだ。
私は自分の作業に戻ることにした。
「濡れないように足場作ります」
そう言って氷の桟橋を作ると、持ち上げられたカプセルはそこで解除され、ついに上陸となった。
「やっと立てた……」
んーっと伸びをするみんなを見ていると、前回も低くて狭いところをモソモソと降りたなあ、などと懐かしく思ってしまう。
ほんの数週間前のことなのに。
と、うっかり物思いに耽りそうになったときだった。
「ようこそ、沖ノ鳥島ダンジョンへ!」
突然、前方の暗闇から元気な声が飛んできて、思わず肩がはねた。
声と同時に照光機が点き、辺りが煌々と照らされる。
現れたのは迷彩服の女性だった。
私はもはや驚くのを通り越して脱力してしまい、その姿をぼんやり眺めてしまった。
他のみんなも同じ気持ちだったようだ。
誰一人、声も上げずに様子を見ている。
そんな呆然とした私たちを前にしても、迷彩服の女性は笑顔を絶やすことなく、まるで遊園地でアトラクションの説明をするかのように続けてきた。
「ここはスタート地点であり、補給ポイントです。食料や医薬品などが保管してありますので、必要に応じて取りに来てください」
彼女の後ろにはコンテナボックスが並んでいて、大きく『食料』とか書かれたラベルが貼ってある。
「探索期間は最長七日。どんな状況でも、そこで強制終了です。カメラを通してギブアップと宣言してください。すぐに救助に向かいます。配信班はすでに攻略を開始しています。急いでください」
一気にそこまで言うと、迷彩服さんはぐっと我々に体を寄せてきた。
「ここだけの話、私は氷結三班を応援してます。どうか先に、『炎の皇帝』を見つけて、倒してくださいね……!」
って、ささやいても、全部映ってますよー……
さりげなく青木さんがベストポジションへ移動して、ばっちりカメラにおさえている。
い、いいのだろうか……
練くんは腕組みして
「そうですか……、どうも、ありがとうございます……。まかせてください」
少々戸惑っているようでもある。
こういうとき、練くんが心強い。
彼は腕組みを解くとさっさとコンテナに歩み寄って、水やら食料やらを無遠慮に持ち出した。
呆気に取られるように見送っていた我々も、弾かれたように後に続いた。
水も食料も安心のために多めに持って行きたいけれど、おじさん体力もたないかもしれないからほどほどに。
獅子戸さんも調子を取り戻したのか、くるりと迷彩服の女性に背を向けチームを振り返った。
「地上で地図を確認しましたが、我々はここから左手のBルートを進みます。一気に地下三層へ降りるルートですので、気を抜かないように」
「はい!」
我々のやりとりを見て、迷彩服さんもなぜか感慨深そうに頷いている。
こっちを応援しているとおっしゃってたけど、なんだか暖かく見守られている気分。
よもやチームの一員みたいな気でいらっしゃるのかな。
物資をリュックに詰め終わり、歩き出した私たちの背中に、迷彩服さんが大声で呼びかけてきた。
「危なくなったら配信で助けを求めてください! どうか気をつけて!」
驚いて振り返ると、青木さんは正面から彼女を撮影していた。
手慣れていて、もはやなんだか怖い……
しかし、これが動画配信ってやつなのだろう!
まるで私だけ台本をもらっていないかのような不安に
隊列は前回同様、練くんを先頭に地念ちゃんと私が続き、その後ろで青木さんと富久澄さんが撮影をしながら進み、最後尾が獅子戸さんだった。
その並びで、私たちは黙々と歩いていく……
ただ、黙々と……
静かだ。
静かすぎるくらいに。
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