第69話 お互いにチーム紹介を

 会議室に入ると、真っ先に青木さんの顔が目に飛び込んできた。

「お久しぶりです!」

と、元気そうだ。

 というか、やる気がみなぎっている様子だ。頼もしい。


 私は思わず彼の近くへ小走りで寄ってしまった。

「お久しぶりです。お元気そうで」

「本田さんもお変わりないですね、ここどうぞ」


 机はロの字に並べられていて、彼はその一番奥に座っていた。

 司会進行役がホワイトボードのある手前の議長席に座ったので、青木さんはその対面に着いていることになる。


 勧められるままに、私は彼と九〇度の位置になる席に座った。

 左隣に地念ちゃん、その隣に富久澄さん、練くん、獅子戸さんが座った。


 進行役がファイルから目を離して、腕時計を確認した。

「それでは時間ですので、始めさせていただきます」


 その声に、私は正面を向いた。

 まさに対戦相手という感じで、配信班の五人が並んで座っている。


 昨日の件は、獅子戸さんには報告していない。報告に値しないだろうと判断した。

 しかしさっきの廊下での出来事で、彼らがどんな連中なのか、獅子戸さんにも見えたんじゃないだろうか。


 私の正面には、結城さんが座っていた。

 議長席に近い上座に座るかと思ってたのに、彼は部屋に入るなり、足早に奥まで移動して最後尾に着いたのだ。


「まずはお互いにチーム紹介を」

 そう言って獅子戸さんが、我々を紹介しようとしている空気がうかがえた。


 が、彼女の声をかき消すように、結城さんが大声を張った。

「どうする? 琉夏るかからでいいか!」


 一瞬で主導権を握っていった。


 練くんの目の前、女性二人に挟まれて座っている琉夏くんが、「はい」と元気に返事をして、その場に起立した。

 ちなみに配信内では、その女性二人が彼をめぐって険悪になっていた。

 本気だろうか……だからこの席次?


「琉夏です。Aランク火炎魔法の二十四歳。配信班の初期メンです! 今回は大変な任務だし、なんか対決だなんて変な感じだけど、お互い頑張りましょう」


 まさに画面から抜けてきたみたいな可愛い系の爽やかイケメンな雰囲気出てますけど……昨日の食堂でのあなたは別人?


 なんだかキラキラと眩しく見える……

 と思ったら、配信班の皆さんみんな輝きを放っていた。


 琉夏くんが着席すると、獅子戸さんの正面にいた女の子が立ち上がった。

 ポニーテールにピンクの大きなリボンが揺れて、ぶかぶかのパーカーの裾から短パンと素足がのぞいていて寒そうだ。


「れるるです。同じく火炎魔法で、Bランクって言われてますけど、誰かの評価なんか気にしたくないと思ってます。第三氷結班のみなさんの、あの動画、見ました! めっちゃよかったと思ったので、今日は会えるの楽しみにしてました。一緒に配信できるのも、えーっと、楽しみです! よろしくお願いします!」


 ちょっと舌足らずに喋り切って、ぺこっと頭を下げて着席。


 今度は琉夏くんの右隣の女性。富久澄さんの目の前の席だ。

 切り揃えられたサラサラ黒髪のボブヘアーで、きつい印象の釣り上がった目をしている。細い体にぴったり体に沿う白いブラウスと黒いズボン。

 見ないようにしたが、胸元が大胆に開いている……


優衣ゆいっす……」

と、気だるそうに名前を告げて、我々を見回した。まるで値踏みするように。

「まぁ一応、よろしくお願いしまぁす……」


 語尾伸ばしにそう言って座りかけて、また立ち上がった。

「あ、Aランクの回復魔法使いなんで、危なくなったらいつでも逃げてきてくれて大丈夫なんで」


 艶っぽい印象なのに、話し方がダルそうなヤンキーじゃん!

 怖い!


 彼女は中腰のまま話し終え、早々に座ってしまった。


 最後はひときわ若く高身長な、念動力の少年だ。


「大地でーす。魔法使ってドローン動かして撮影してまーす。趣味は動画見ることでー、特技は動画撮ることでーす。っがいしまーす」

と、座ったまま。

 なかなかの挨拶だ。


 一拍あって、結城さんが右手をヒラヒラ振った。

「私は映らないからいいよ。次いって」


 え、そんなのあり?


 っていうか、このチーム、どうやって回ってんだ?

 

 余計な心配をしている私の隣では、地念ちゃんが手に汗を握っていた。

 肩を私の方へちょっと寄せてくる。


「い、い、今みたいな自己紹介、長い、言わないとだめですかぬ……?」


 すでにカミカミだ。


「大丈夫だよ。彼らは……」

 プロフェッショナルだからこういう場にも慣れているんだよと言おうとして、私は言葉を止めてしまった。


 なにか……、違和感が……


「ど、ど、どうしました?」


 青白い顔の地念ちゃんが、さらに声を落として聞いてくる。


 その間に獅子戸さんが、簡潔に名前と所属を告げている。


「知ってますぅ」

と、ポニテ少女が声を上げた。

「発電の獅子戸さんですよね。地図制作班でドローンのバッテリー充電した……」


「はい、そうです」


 認める彼女の声色に、ほんの少し屈辱が混じる。


 何かフォローして差し上げたい気持ちもあるのだが、そんなことよりも私の目は、忙しなく部屋中を動いていた。


 結城さんに気づかれてしまう。

「え、なに? 本田さん、何か質問?」


「あ、いえ」


 めっちゃ恥ずかしい!

 なんでもないですって言いそうになる。

 でも……、やっぱり気になる……!


「それ、カメラですか?」


 私は結城さんの席の前にある、黒くて小さな、マイクのような機材を指差した。


「それも……そっちも……あ、あれもだ」


 配信班各人の前に一台ずつと、それから青木さんの隣、議長席の近く、よく見たら、出入り口の方にもひとつ。


「撮影なさってたんですか!?」


 獅子戸さんが、目を丸くして声を上げた。


 

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