第46話 最終決戦

 まずは土星を作って、それを氷柱つららで包む。いくつもの魔法を次々組み合わせていくのだ。三人の協力と集中力が求められる。


 それを鉄槌の攻撃を受けながら短時間のうちにやり遂げなければならない。


 そう思っていた時だった。


 背後の獅子戸さんが驚いているような気配があったと思うや否や、攻撃の合間を縫ってドタバタと二人分の足音が駆け寄ってきた。


 青木さんと富久澄さんだ。

 しかも到着するなり早口に捲し立ててきた。


「説明は後です。私と青木さんがみんなを守るので、作戦に集中しててください」


 そう言うや、二人はいきなり抱き合ってしゃがんだ。


 すると、私の作ったかまくらよりもさらに安全な、どんな攻撃も通さない透明なドームが生まれたのだ。


「こ、これは……?」


 さすがの獅子戸さんも目を丸くしている。

 私は〝爆弾〟作りに集中していたが、話は漏れ聞こえる。


「『絶対防壁』です!」

「でもこっちの攻撃も通らなくなるので、何かするときにはいったん解除します」

「あと、せいぜい十秒ずつしかもちませんが、今のところ無限に発動しています」

「コメント欄でカウントダウンしてもらって……」

「敵のチャージに合わせて解除、発動を繰り返してます」


「よし、頼もしいが氷壁から出るなよ。〝爆弾〟はどうだ?」


 地念寺くんが、雪をカプセルに包んで浮かび上がらせる。すかさずそれを火車かしゃが熱し始める。


 地念寺くんの手が震えるほど力んでいる。火車は弱火に見えるが、すでにかなり圧力がかかっているようだ。


 このエネルギーを守り切れれば……


 私は急いで土星を打ち込む〝ロケット〟を作った。


 中は空洞、先端は硬く、密度を上げて……


 ほんの一瞬で、私の思い描いた通りのそれが現れてくれた。透明度の高い氷だ。中に土星が見える。


 え、こんな細かい指定までできるんですか?

 私ってすごい魔法使いなのでは!


「目視できるから俺らもコントロールしやすいな」

と、練くんも炎を操る瞳に自信がみなぎる。


「何度でもできます。やりましょう」

と、地念ちゃんも強気だ。


 おそらく強さもスピードもないだろうから、何度も打ち込むことになりそうだ。


 せっかくできた第一号。慌てて飛ばして無駄にしたくない。


 私はそれをいったん氷壁の上に乗せた。


「獅子戸さん、ただの氷柱つららで試し撃ちしたいです!」

「許可する。『絶対防壁』解除不要! 本番ロケットと思って全員動きを注視しろ!」


 私は素早く空中で氷柱つららを作り、鉄槌に向かって投げつけた。ほとんど水平に、顔面に向かって。


 鉄槌は右手に持ったハンマーと、左前腕の籠手でガードする。


 ちゃんと飛ばせた。

 今度は三本、作ると同時に発射した。


 ドドドッ!!


 ぶつかって砕け、粉雪が舞う。


 その隙に私は、二人に目配せした。

 問題ないようだ。


「サン、ニー、イチ!」


 一発目。


 獅子戸さんのタイミングで『絶対防壁』が解除され、土星ロケットがまっすぐ鉄槌へ飛んでいった。


 同時に敵の右側からも氷柱を打ち込む。右手のハンマーでそっちをガードしてくれたら、土星がまともに当たるんじゃないかと期待した。


 ドンッッ————!!


『ガァアッ!!』


 二発の氷柱を受けた鉄槌は獣のような雄叫びを上げた。


 土星は確かに爆発したが、彼女の左腕から煙が上がっただけだった。


「加速させます! 攻撃し続けてくだしゃ!」


 地念寺くんが凍える唇で叫んだ。


 次の瞬間、無数の氷柱が降ってきた。

 視聴者が〈乱れ打ち〉と呼んでいた細かな氷柱の雨だ。『絶対防壁』の効果は十秒ごと。私は氷壁を延長するように屋根を作った。


 冷静に対応できた気がするが、しかし攻撃は終わらない。


「引きつけます!」

と、叫んだときにはすでに、私は屋根の外に飛び出していた。


「本田さん!」


 獅子戸さんの声が響く。


 降り注ぐ氷柱つららを吹雪で薙ぎ払いながら、こちらも氷塊を投げつける。氷と氷のステゴロ試合だ。


 鉄槌の注意が私に集中しているうちに、五人は氷壁を一層分後退したようだ。目の端で動く影を捉えた。


 視線を移動させる余裕すらない。同じ大きさの氷柱を作るのに、鉄槌は私の半分の時間しかかからない。


 しかし突然、私の投げた氷柱が加速して鉄槌の左胸にヒットした。


 驚いている暇はないので氷柱を投げ続ける。


 何度目か、氷柱が加速したのを目撃し、地念寺くんが圧縮したカプセルを氷柱の後方で爆発させているのだとわかった。


 空気を圧縮したカプセルの、一方向だけ穴を開けたのだ。なんという繊細な仕事だろう。


 味方の勇姿を確認しながらも、私だってほぼ無意識で吹雪を操って攻撃をなしている。


 天才……!


 自分を鼓舞しながら、一瞬でも怯まないように敵を見据える。


 するとなんということでしょう!

 腰のあたりの鎧に、ひび割れが見えた!


「右腰!!」


 叫んだが、みんな同じところを見ていた。

 敵の右側に土星が飛ぶ。

 私は急いでそれを氷柱で覆った。


 二つ以上のことはできない。

 私は、自分の盾である吹雪を諦め、鉄槌の左側面へ大量の氷柱を浴びせかけた。


 死にさえしなければ、富久澄さんに治してもらえるんだから。


 敵の意識が、左へ移動した。


 今だ。


 吹雪と念動力で空中に押し留められていた土星ロケットが、一気に前進した。


 偶然ではあったが、それは押し留める吹雪と押し出す念動力という関係になり、まるでエンジンの空ぶかしをしていたような猛スピードになった。


 気づかれてはいけない。


 ダメ押しに、敵の頭上から氷塊を落とす。

 それはやすやすと破壊された。が、本命の土星ロケットはガラ空きの左脇腹へ命中した。


 ガシャーンッッ!!


 これまでで一番大きな、氷の砕ける凄まじい音が響いた。


 

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