第44話 戦闘開始
「神鏑木の様子がわからん。連絡役が欲しいが、富久澄を地念寺から引き離すのは惜しい」
いまさらだし、こんなときに言うことではないけれど、戦闘状態になると言葉が軍人みたいになる獅子戸さん、かっこいいと思う。
「本田、時間を稼ぐぞ。鎖をもう一度!」
「後退しながら打ち込みます」
「よし、かまくらまで戻ろう!」
私が狙いを定める間に、どうやったのだろうか、獅子戸さんはアイコンタクトと身振り手振りでそれを地念寺くんたちへ伝えたようだ。
私が鎖を作り出す。
鉄槌がそれを振り解こうとする。
地念寺くんが
その瞬間、青木さんと富久澄さんが、一列になってかまくらの方向へ走り出したのがわかった。
彼らが無事に到着するまでカバーしなければ。
そう思ったが、鉄槌の方が早かった。
ハンマーを振り上げたのは、私の鎖を払うためではなく、乱れ打ちのチャージモーションだったのだ。
鉄槌は、最初から青木さんと富久澄さん狙いだった。
弱いところを叩こうという作戦だったのか。
地念寺くんの
鎖と氷柱に集中していた私と地念寺くんは、氷壁も念動力も間に合わない。
ところが——……
奇跡が起きた。
ガシャーンッ!
という音と共に、鉄槌の氷が跳ね返されたのだ。
いや、青木さんと富久澄さんの頭上で、なにかに当たって粉々に砕けたと言った方が正しいようだ。
まるで、二人が見えない傘の下にいるみたいに。
このときは戦闘中で、瞬間的な判断を続けなければいけないときだったので、咄嗟に地念寺くんが間に合ったのだと思ったし、二人が無事ならばそれでよかった。
私はさらに後退しながら、獅子戸さんのために鎖を鉄槌へ打ち込み、彼女も今度こそ渾身の電撃をお見舞いした。
怯んだ隙に、全員がかまくらの中へ。
青木さんが一瞬のひらめきで外にカメラを仕掛けてくれたおかげで、タブレットからうっすら状況が見える。
〈敵、まだ怯んでいます〉
「神鏑木!」
「だめ。何度試しても火球まで熱が貯まらない」
返答に、獅子戸さんは火球チャージは中断するよう手で制した。
作戦変更だ。
「地念寺!」
「僕のパワーでは鉄槌自体を潰すことはできません」
出口の
〈敵、立ち直った〉
〈目視でサーチ中〉
〈気づかれそうです〉
「私の電撃では怯ませる程度。出力を最大にすればいけるかもしれないが、この場にいる全員に被害が出る。本田!」
「氷対氷なのでダメージは与えられそうにありません。逆に言えば、彼女も同様です。鎖も、振り払えても破壊できなかった」
〈気づかれた!〉
〈ハンマー振り上げ!〉
〈チャージ開始!〉
「つまり、かまくらは安全だな」
「今のところ」
答えると同時に一撃が加えられ、激しい振動が我々を襲った。
だが私の見立てどおり、かまくら自体が壊れることはない。
〈再びチャージ開始!〉
「あの」と、富久澄さんが遠慮がちに言い出した。「攻撃には関係ないかもしれませんが」
「いいから要点を言え」
獅子戸さんの催促に、富久澄さんは怯えるどころか挑むような目になった。
「さっきのバリア、
「なんだって?」
全員の目が青木さんに注がれる。
「私は『もうだめだ』って、彼にしがみついていただけなんです」
「本当か?」
またしても爆撃を食らったような激震。
〈再びチャージ開始!〉
全員がただただ驚く中、獅子戸さんの判断はまたしても早かった。
「この土壇場で能力が開花することもあるかもしれない。一度だけの発動ではわからないが……」
つまり、使えないということか。
私はこの目で見た、二人が透明なドーム状の囲いの下にいるのを思い出した。
ドーム状……、ドーム……といえば、進化した地念寺くんのカプセル……
そして「あっ」と、思いついた。
思いついたら、口から出さなければ気が済まない性分だ。
「ば、爆発させられないかな、圧力鍋の要領で……」
と、地念寺くんを見やると、彼は即座に理解してくれた。
「僕が氷を包んで……、押し留めて……」
と、曇ったメガネの奥から練くんに首を巡らせる。
「それを熱し続けりゃ……ボンッ?」
と、練くんが白い息を吐いた。前髪が凍っている。
地鳴り。
振動。
全員、シェイクされたみたいに肩をぶつけ合う。
頭が揺さぶられる。
発案者の私は、ちょっと不安になった。
「の、はず……、圧力鍋を爆発させたこともないけど」
「なんでもいいから、やってみようぜ」
と、練くんが気合いを入れると、獅子戸さんがまとめてくれた。
「練習の暇はない。即興でいけ。私と本田が囮になる。富久澄!」
「はい!」
「青木のことを頼んだ。さっきの話、安全を確保しながら試してみろ。だめならかまくら内に留まれ」
「わかりました!」
〈チャージ再開!〉
かまくらから飛び出すなり、私は鎖を鉄槌に投げつけた。
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