1年前 富久澄 心希
その頃の私は、大学受験とペットショップ店員との両立で、忙しいながらも充実した毎日を送っていた。
実を言うと、最初はそんな壮大な計画のはずじゃなかった。芸術系の大学を卒業するとき大失恋をして、途方に暮れていたら縁があってこのお店に就職。
可愛い動物たちに傷ついた心を癒してもらう毎日。
それだけだったのに……
社員さんはトリマー専門学校卒が多いから、自分も働きながら夜間学校で資格を取るべきかなって考えはじめた。それが、めぐりめぐって「やっぱり獣医師になりたい! 癒してもらった分だけ、恩返しがしたい!」って気持ちが湧いてきて、自分から選んだの。
仕事をしながらの受験勉強は本当に大変で、毎日へとへと。両親に「もう一度大学の費用を出してほしい!」とは言えなかったから、学費と予備校代を稼がなきゃ。
こんな状況で一発合格なんて無理。最初から三年越しの計画だった。獣医になる頃には三十歳になっちゃうけど、年齢なんか関係ないよね。
で、ある日、半分寝ながら帰ってきたアパートのポストに、区役所から『全国能力者一斉テスト』を受けて欲しいってハガキが届いてた。
これが、その後の私の運命を変えることになるなんて、その時は思いもしなかった。
テストを受けたら、びっくり、石がピカって光った!
私が世界を守る?
そんなこと、私にできるの?
「テストは義務ですが、あくまでボランティアですから断れます」
って言われて、断れる人っているのかな。
やるしかないじゃない!
怖くてしょうがないけど、この力はきっと、私のためのものじゃない。みんなのためにあるはず!
だって、何十人も触って無反応だった石が、私の手の中で光ったんだよ?
それはつまり、シンプルに、光った人は光らなかった人を守る立場にあるってことなんじゃないかな。
私はすぐに、施設での共同生活に飛び込んだ。
毎日トレーニングして、勉強して、ダンジョンに慣れて……
でも年頃の男女が、ひとつ屋根の下で暮らしていれば、そういうこともいろいろ起きて、ダメだって思ってるのに、仕方ない流れに飲み込まれてしまう。
年下の彼氏ができたと思ったら浮気されて、悲しむ間もなく別の男性に迫られて……と、数々の揉め事に巻き込まれもしたけれど、結局最後はジムトレーナーと真剣交際になって、私にとっては充実した茨城での毎日だった。
その日までは。
急に言い渡された配置換え。
びっくり。千葉ダンジョンの『氷結特殊班』に任命されちゃった!
嘘でしょ! 喧嘩別れしたレンと、また一緒なの?
これってどんな運命???
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