2年前 地念寺 悠真

 『全国能力者一斉テスト』を受けたのは、修士論文作成の真っ只中だった。努力義務という話だったけれど、会場が同じキャンパスの大講堂だったので、指導教授に促されて昼休みに並んでみた。


 石が光ったことは、覚えているような、いないような。とにかく勉強が忙しかったので、他のことは考えられない時期だった。


 詳細は口頭試問まで待ってほしい旨を伝えて、三ヶ月。すっかり忘れて発表会も終え一息ついていたら、政府の方を大学院まで迎えに来させてしまった……。


 大変申し訳ない。


 能力を精査するための部屋に入ったけれど、僕は延々なんの力も発揮できなかった。


 二週間かかって、自然発生的に溢れてくる『受動タイプ』ではなく、自分の意思で力を発動させねばならない『能動タイプ』だと判明した。能動的でない人間なので、ぼんやりしていて、係の人に無為な二週間を過ごさせたかと思うと胃が痛くなる。


 とはいえ僕も春休みが丸っと潰れた格好なので、後期課程に早く戻りたいと思ったのだが、やや右傾向のある父が研究所まで押しかけてきて、「大学は休学してもいいが、国の一大事にお役に立てるのは今しかない。お前のその〝おぱんつ〟だか〝でやんす〟だかいう研究とやらは、どう日本国に貢献しているんだ」と説き伏せられてしまった。


 遅れまして、ビザンツ帝国における宗教を研究しておりました、地念寺悠真と申します。


 さて、『念動力』は容易く操れるようになった。しかし一定以上重いものや、早く動くものには対応できない。いや、できなくはないのだけれど、すごく疲れるのでやりたくない。


 それに、ぐしゃぐしゃに潰してしまった林檎や空き缶を見て、思ったのだ。


「これが人なら、どうなってしまうんだろう……」


 恐ろしくて、なるべく力を抜くことにした。


 元来外交的な性格ではなく、嫌味で居丈高な父親から常にダメ出しを受けて醸成された卑屈さも相俟って、合宿生活では完全に孤立してしまった。


 大学院にいれば、同じような気質の人もいて気楽だったものの、ここでは明るく元気にダンジョンに挑み、モンスターに立ち向かう体育会系が多い。


 いや、外の世界だってそうだったではないか。どこへ行っても社交性というやつが求められる。


 いくつかのダンジョンで実戦に参加したが、予想どおりどこにも馴染めず流浪の民となり、二年の間に六カ所もの訓練所を転々とした。


 標準的な数でないことは、他の人の噂話で知った。


「あいつ、暗すぎてチームの士気を下げるから行き場がないんだって」


 北海道の秋はあっという間に終わってしまう。本格的な冬が来る前に千葉への異動を言い渡され、ほんの少し安堵していた。寒いと余計に気落ちする。


 『氷結特殊班』で念動力が必要とのこと。


 何事もなく過ごせればいいのですが……。


 

 

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