第21話 ゴブリン前に人事面談です! 後編

「別に嫌ってなんかねぇよ」

と、これが神鏑木くんの第一声だった。


 先走った獅子戸さんが、「地念寺さんを嫌っているのはなぜですか?」と、火の玉ストレートに質問してしまったのだ。


 むっつり黙ってそっぽ向いてしまった神鏑木くんに、しかたなく私からアプローチしてみる。


「うん。そっかそっか。嫌ってないんだ。でも君の態度から、嫌ってるのかなーってオーラを感じてしまって」

「は?」

と、神鏑木くんに火がついた。


「じゃあ俺が悪いのかよ? あいつの方がおかしいだろ」


 うーん、やっぱり、それって、嫉妬?


 ことごとく活躍の場を奪われて、イライラしてしまっているのかな。


 と、思ったら。


「あんなすごい能力持ってんのにさ、『僕なんて』って、自分のこと低くするじゃん。高く評価しすぎるやつもムカつくけど、低いのはもっとダメだろ。『火をどうぞ』とか、『お膳立てしました』みたいな態度取られると、ホント頭くるんだよ。ちゃんとできてるんだから、堂々としてほしい。あいつ自身、自分の価値を正当に評価してほしいんだよ」


 やだ! レンくん! いい子!


「媚び売られんの嫌なんだよね。心希ここのもそうだけど」


 感動していると、彼は富久澄さんにまで言及した。


 なるほど。彼女にもそのあたり面談で聞いてみないといけないかな。


 私が頭の中で質問事項を確認している間に、獅子戸さんは肝心なことを話してくれた。


「えっと……、それでは、地念寺さんの性格を変えることはできませんので、はっきり言って今すぐ解決できることではないですが、あなたの気持ちはようやくわかりました」


 練くんはまたそっぽを向いたが、その表情は、悪くなかった。というか、照れてるようだった。


 私も声をかけた。


「地念寺くん、びっくり屋さんなんだって。だから、また練くんに先頭になってもらいたいんだけど……」

「いいよ」


 あっさり。


 練くんは、最後には「話せてよかったよ」と言い残して、次の富久澄さんを呼びに行ってくれた。


「獅子戸さん、すごいですね。次々と解決してますよ」

「はぁ……、そうでしょうか」


「ゴブリンまで、もうすぐですね」

「面談が済んだら出てくるものじゃないんですけど……、でもまぁ、距離的にももうすぐですね」


 そう言われて、私はアームガードに入れっぱなしだった地図を開いた。


「えっと……、今いるのは……」

「ここです」と、横から獅子戸さんの指が伸びてくる。妙に近い。「行き先は、この辺りですね」


 なんと。

 複雑に折れ曲がった通路のすぐ先ではないか。


「地図上では簡単に書かれてますが、このマークは崖の道で、しかも下り坂ですね。ゴブリンはそこを越えた先です。彼らがこっちへ来ないのは、狭い足場を嫌っているためと考えられてます」


「じゃあ、その狭い崖の道を越えた……こっちの広場みたいなところにいるんですね」


 私は地図上をなぞっていって指を差した。


「遠くへ移動していて、不発ということもあり得ます」

「その場合は、さらに奥まで進むんですか?」


「いえ、退却して計画を立て直します。地上との連絡が可能であれば、こんな面倒も減るのですが」


 そんなやり取りをしているうちに、最後の富久澄さんがやってきて、我々の前に座るなり、なんと深々と頭を下げて謝罪した。


「ごめんなさい!」

と、これには面食らった。


 しかし富久澄さんは有無を言わさぬパワーで続ける。


「私がいけなかったんです。彼ってあんな感じだから、私、心配で。でも、それがチームの迷惑になってんたんですよね」


「いやチームの迷惑っていうより彼の迷わ……」

「そうかもしれません」


 私の訂正と、獅子戸さんの同意が被った。

 富久澄さんは止まることなく自ら改善点を語った。


「これからは、ちゃんとみんなの様子を見て、平等に気を配っていきます」

「そうしてください」


「はい!」

と、元気な返事。


 ちゃんと伝わっているのか、ちゃんと考えてくれているのか、不安……


 しかし私は、ひとまず獅子戸さんのやり方に従うことにして、言葉を挟むのはやめにした。


 女性同士の阿吽の呼吸があるのかもしれない。


 獅子戸さんはみんなを呼んでくるように富久澄さんに頼み、彼女が元気に駆けていくのを見送ると私に向き直った。


「富久澄さんもチームのために動いてくれるようで、よかったです」


 あ、彼女の言葉を素直に受け取ってるだけだ。


 しかしこんな短時間ですべてが解決するなんて、私も思ってないので、これ以上の足止めはやめようと判断した。


 全員が揃うと、私がすることはまず仮病の伏線回収だ。


「お時間いただいて、すみません。だいぶ元気になりました」


 続いて獅子戸さんによる簡単なブリーフィング。


「皆さんとの面談で、問題点も改善策も確認できました。まず、神鏑木さんが先頭、攻撃に集中してください」


「はーい」

と、練くんが軽く返事をする。


「地念寺さんは二番手、サポートをお願いします。ただし謝罪は不要です。謝りそうになったら唇噛んでください」

「え……」


 地念寺くんは固まってしまったが、獅子戸さんは次の指示へ。


「本田さんと富久澄さんが後ろに続き、私が殿しんがりです」


「承知しました」

「うん、みんな頑張ろうね」


 私がビジネス的な返事をする横で、富久澄さんはにっこり笑って、胸の前で小さくガッツポーズ。そして我々男性陣三人を見回す……


 これが彼女の言う「平等に気を配る」ということなのか!


 おじさんは、やりづらいです……



 

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