第3章 ダンジョン実地訓練へ
第15話 このチームにダンジョンは不安過ぎる
翌朝、私は初めての場所に足を踏み入れていた。
大倉庫内に設置された、千葉県地下迷宮対策部の作戦本部だ。
普段、試験場へ行くのにも大倉庫を通っている。
しかし扉は入ってすぐの場所にあるし、なにより迷彩服を着た厳しい雰囲気のお兄さんたちが忙しそうにしているので、見ちゃいけない気がして視線をそらしてきたのだ。
もっとも、そうやすやすと覗かれないように、本部自体もしっかり区分けされていた。
とにかく、入るなり私はその豪華さにあんぐりとしてしまった。
ずらりと並んだ巨大なモニターに、ダンジョンの様子などが映し出されている。たまに特番などで見る映像とまったく同じだ。
大きなテーブルの上には地図。
千葉中部ダンジョンのものだそうだ。
それを横目に、部屋の端に並んだ長机へ移動する。と、我々のために用意された装備品が置いてあった。
水、食料、ランプ、寝袋などなど。そしてそれを入れるリュックが人数分。
「荷造りしますよ」
と、獅子戸さんの指示のもと、各自ひとつずつチェックしながらリュックに詰めていった。
空いた机上に地図が広げられ、目的地の説明を受ける。
「今日は訓練ですから、すでに探索済みで安全が確認されているD7エリアに降りて、ゴブリンを採集します」
思っていたよりもずっとシステマチックだ。
まだ無機物を相手にドギマギしているのに、一気に生き物を相手にすることになるとは。
しかし社会人たるものそんなことに異を唱えてはいけない。
なんとか気合いを入れようとしていると、神鏑木くんからのツッコミだ。
「おっさん急にモンスター捕まえられないんじゃない?」
彼の率直さにももう慣れた。おじさんがいちいち若人の
こんなの可愛いものだ。
「いやあ……、やってみます」
「きっと大丈夫ですよ!」
と、富久澄さんにも励まされる。
私は防寒具を着込み、神鏑木くんは防火服で、後の二人は黒ジャージだ。獅子戸さんも、最初に会った日のようにランニングウェアだった。
ダンジョン攻略というよりハイキングか、運動会のような雰囲気がある。
「いきましょう」
獅子戸さんを先頭に、ダンジョンの入り口を目指して歩いて行くのは田んぼの畦道。
あまりにのどかで気が抜けそうだ。
見渡せば、周囲は立ち入り禁止になっており、見える限りの民家はもぬけの殻である。
こんな場所が全国各地にあるのだ。
他国ではダンジョンが口を開けている真横に人が住み続けているところもあるそうなのだが、日本では安全面への配慮から退避が勧告されたのだ。
ここに暮らしていた人たちは、どこへ行ったのだろう。
悲哀を感じる……
しばらくして迷彩姿の隊員が二人、道路に立っているのが見えた。見張りだ。
彼らに挨拶して右を向いたら、もう目の前。
田んぼの真ん中に、ぽっかりと大きな穴が空いていた。
「うわ……」
「初めて見ますか? これがダンジョンの入り口です」
赤褐色の岩に覆われた、いわゆる洞窟だ。
場所が山とか崖ならよく目にする光景だが、田んぼの真ん中にあると、まるでそこだけいきなり陥没したみたいに思える。
不自然さが違和感となって、ぞくぞくとした恐ろしさが足元から這い上がってきた。
ゲートがあるわけでもなかった。
足を滑らせて、転がり落ちてしまいそうだ。
「入りますよ」
決心するより早く獅子戸さんの号令が飛ぶ。それも、ちょっとそこまで行くくらいの声色で。
ダンジョン内は、それこそ本当に、ただの洞窟だった。
見かけだけは。
これがただの洞窟ではないことは、体で感じ取っていた。
内部に侵入するなり、全身にじりじりとエネルギーが流れてくるのがわかるのだった。
私は頑丈なクーラーボックス。
そう自身に言い聞かせる。
入り口付近は崩れる心配があるのか、木材による支保工が行われていたが、それもすぐになくなった。
ところで、支給された装備品の中に、紙の地図を挿入するアームガードがあった。ダンジョン内は電波が届かないので、アナログ頼みなのだ。
徐々にアンテナを増やしているらしいが、外と同じ環境になるのはいつのことやら。
地図どおりに進むこと五分、道が塞がっていた。
「落石か……」
という獅子戸さんに、地念寺くんが前に出る。
「……どかします」
彼は控えめに告げると、両手で岩を摘んでどかす仕草をした。
すると、数メートル先で同じ動きで岩が移動した。
本物の超能力だ!
スプーン曲げて欲しい!
「すごいじゃん、地念寺くん! 涼しい顔してパパッとやっちゃうなんて」
素直な感想でありつつ、彼をチアアップしたくて少々大袈裟に褒めてしまったら、完全に「このおっさんウゼぇなぁ」って顔されてしまった。
「あの、褒めないでください。大したことないですから……」
と、引きつった笑顔でさらに背を丸められてしまう。
私は咄嗟に獅子戸さんへ、ありもしないテレパシーを送った。
すみません! 失敗しました!
そう反省したのには、訳がある。
それは昨晩のことだ……
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