25.闇魔法

S side


「……ん、シ…オ…ッ、」

「え、…ちょ、レティ…、?」


 とろぉっと ふやけた瞳から目が離せない。

理性が崩れていく。心臓が痛い。身体が熱い。



 耐えろ って…!!



 事は、数日前に遡る。




◇◇◇◇◇




「おいで、レティ」

「…ん、」


 講義がない為に、王城で公務を行っていたレティシアに声をかけ、甘える彼を補給する。長椅子ソファに腰かけて、定位置に座った彼を抱きしめる。


 侍女、護衛達には、“ 何かあれば、声をかける ”と伝えている。要は、ということだ。

 勿論、公務は終えている。文句は言わせない。



 第一王子とはいえ、年頃だ

 恋人とイチャイチャさせてくれ、、



 頭を撫でていると、寄りかかっていたレティシアが、身体を起こす。


「どうかした、?」

「…相談…、聞いて欲しい」

「勿論」


 躊躇ためらいつつ、口にする姿に、自然と頬が緩む。そっ、と頬に手を添えれば、無意識に擦り寄った。



 可愛いなぁ…、



「進級課題…どうすれば良いか、考えてるんだけど……」


 王立学園中等部では、高等部に進学する際に“ 進級課題 ”が課せられる。


 中等部卒業1ヶ月前に、内容が知らされるが、例年、魔導具を製作することになっている。約1ヶ月間で ⑴思案、⑵製作、⑶書類作成、⑷提出が求められる為、年齢を考慮すれば、難題だ。


 それに、場合によっては、既に商品化されている為、歴代卒業者が製作した魔導具と酷似していれば、盗作と見做される恐れがある。それ故、必然的に難易度は、年々上がっていく。


「シオンが作った“ カシツキ ”、母様が使ってるよ」


 そう、俺は中等部卒業時に、水魔法を主軸に、炎、風魔法を組み合わせ、前世で云う“ 加湿”を完成させた。言うなれば、前世チートだ。


 今世は、魔法に頼っている為、前世程 技術が発展していない。だが、気候に関しては、前世とそう変わらない為、“ 乾燥 ”に悩む者は、風邪を拗らせ、肌荒れに心を病んだ。それ故に、優秀であれば、商品化を打診される進級課題で、加湿器を製作、提出した。現在では、量産化が行われ、以前と比べて 安価で販売されている。


 余談だが、先日 レティシアに贈ったイヤーカフは、此処で得た利益で支払っている。決して、国税を使ってなどいない。


 本来、レティシア程、成績が優秀であれば、優に完成させられるが、彼に至っては……


「闇魔法…か」

「うん…」


 闇魔法は、攻撃性が高い故に、実用性が低い。


 魔導具としては、用途が限られる為、思い付いた時には、既に歴代卒業者によって実現されている。従って、製作は不可能だ。圧倒的不利な条件に、“ 助けられれば…、”とは思うが、



 高い攻撃力……確か 最近、辺境地で…



「レティ、」

「なぁに?」

「誰に使って欲しいかを想像すれば、良いんじゃないかな」



 “ 孤児院で出会った、子供達…とかさ ”



「誰に…、使って欲しいか…」



 これ以上は、口を出すべきじゃないな



「孤児院…、子供…、」


 ぽつりぽつりと言葉を零す姿に、答えに気付くには、そう時間はかからないだろう。




◇◇◇◇◇




 数日後、レティシアは資料数枚を抱え、城を訪れた。


「“ 防犯ネコ ”?」

「うん、!孤児院に行った時に-----」



『近頃、人攫いが多くて 物騒なの。孤児院は、男手が少ないし、いざという時は、私達が子供達を守らなきゃいけなくて-----』



 そう、孤児院に出向いた際、職員が、憂いた様子で言っていたらしい。



 先日、辺境地で“ 息子が誘拐された ”として、被害届が出されたと報告を受けた。後に、警備隊を向かわせ、事件は解決、当該少年は無事に保護された。これを機に、辺境地、特に 孤児院周辺は、警備を強化させることになったが、人員不足によって、未だ計画を実行に移せずにいた。


「普段は、ぬいぐるみとして使えるけど、誘拐犯とか…子供達に危害を加えようとすれば、こう…動き出して、追い返してくれる!!………どう、かな?」


 懸命に説明してくれるレティシアに、愛しく思う。


 子供達を怖がらせない為に、そして、不審者を撃退し、犯罪を抑止する為に、高い攻撃力を有す闇魔法を使う…か。


「良いんじゃないか」


 その言葉に、ぱぁっと顔を明るくさせた……が、刹那、視線を落とす。


「レティ…、?」

「危機感知を刻む魔法が、難しくて…」


 確かに、事後的に発動させる魔法は、難易度が高く、王立学園では、高等部に進学しなければ、習得しない。


「レティ、」


 机を前に、後ろから抱きしめる。


「俺がレティに魔力を流していくから」



 “ 集中して ”



 耳元に囁いた瞬間、ぽっと頬が色付いた。こくこくッと、頷く。


 机に置物を置いて、重なった手をかざす。レティシアが、置物に視線を向けたことを確認して、ゆっくりと魔力を流していく。それを辿れば、高難易度であろうと、習得は容易たやすい。


「……ん、シ…オ…ッ、//」

「え、…ちょ、レティ…、?」


 嬌声が鼓膜を破いた。次第に、身体が預けられていく。



 待って、…レティッ、

 耐えらんねぇって、!



 確かに、前世で姉が言っていた。


 創作には、という展開が存在する、と。


 魔法世界では、稀に相性が良くて、気を引き起こすことがある……らしい。応急処置と言い張って……が流れだ。



 ぽぅっと、潤んだ瞳を向ける恋人に、理性は崩壊寸前だった。欲望と、世間体に揺れる。



 名実共に、に……、



「シ、オン…、ぁ…、はぁ…///」

「レティ…、ッ//」


 ぷつん、と何かが切れる音がした。

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