番外編③

時間軸▶︎▶︎▶︎[学園編:14.ヒロイン]後になります

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S side


「何をなさってるんですか」

「え、……あぁ、レティシアに渡す装飾品を考えていて」


 ルカスが、法務課に頼まれていた報告書を返す為、第一王子室を出て行った隙に、構成案を取り出す。


 ヒロインが現れた以上、レティシアに危害を及ぼさないとは言い切れない。況して、彼女は、第一王子シオン・アルフォンスを攻略する気だ。


 その証拠に、夜会オープニングで、“ バルコニー ”を選択して以降、懲りずに、追いかけ、声をかけ、擦り寄ってくる。


 次第に、攻略過程に違和感を抱かれ、レティシアに矛先を向けられる可能性があった。


「何になさるんですか」


 “ 期限が、明日になっていますが ”


「それが………まだ決まってない」

「え、どうするんですか」


 そう、構成案に記載された期日を知って、問いかけられるが、現時点で、俺は危機的状況に陥っている。


 乙女ゲームにない執拗さに、早急に策を講じなければならないと考えた末、レティシアに、“ 位置情報 ”と“ 録音機能 ”を発動させられる魔法陣を描いた装飾品を渡すことにした。


 前世では、親が子供に、GPSが搭載された携帯電話を渡していたし、ハラスメントに悩まされる社員が、上司を訴える為に、ボイスレコーダーを常備していたという話題が、度々取り上げられていた。



 そう、断じて“ ストーカー行為 ”ではない。



 だが、防犯とはいえ、最愛レティシアが身に付けるからには、彼に相応しい品を贈りたい。それ故、何一つ、詳細は決まっていないが、取り敢えず、王都一 腕が良いと言われている職人に依頼書を送った。


 そして、同日中に、承諾する旨と共に、構成案、希望書などが返送された訳だが、未だに埋められていない。空白だ。


 当該 魔法陣は、完成後に俺が刻むとして、装飾品自体をどうするか、迷いに迷い、期日前日にもかかわらず、決め兼ねていた。


「ネックレスは、学園で付けるには目立つかと」

「指輪は…、」

「重いです」

「……だよな、」


 同封されていた完成例を、パラパラと確認していく。


 ピアスは、耳穴ピアスホールを開ける必要がある為、却下だ。レティシアに痛い思いはさせたくない。ブレスレットは、剣術、体術といった実技授業で、邪魔になる。場合によっては、破損する。となれば…、


「あ…、」


 思い付いた案が実現可能か、資料を辿っていく。


「あった…!」

「良いと思います」


 それは、資料後方に掲載されていた。ネックレス、指輪といった華麗で、目を引く装飾品を好む子息令嬢が多い為、注文件数が少ないことは 明らかだ。



 ベースが決まれば、後は……



「何を話しているんですか」

「え、あ、ルカス…ッ!」

「いえ」


 思わず、動揺を隠せなかった。


 扉前に立っているルカスに気付いていたか、否かは分からないが、顔色一つ変えずに答えたディルクを睨む。



 ばかッ、言えよ!!

 ……バレては…ない、か



 咄嗟に、構成案を書類に紛らわせた。背中に隠すなんて選択肢は取れない。取れば、だ。


 レティシアに渡す装飾品に、魔法陣を刻む以上、此奴《コイツ》に知られれば、



『何を組み込むんですか』

『バカですか』

『嫌われますよ』

『嫌われれば良いんじゃないですか』



 口煩く言われることは、目に見えている。


 依頼先には、第一王子として、個人的に得た収入から支払う為、経理課に伺いを立てなくて良い。


 よって、ルカスに伝える必要はない。

 Q.E.D!!


「何か隠してます?」

「は、?んなことねぇよ」


 完全に疑われている。“ 早く言え ”と目線で訴えられるが、屈する訳にはいかない。


「ローレン公爵子息様にお渡しする装飾品について、相談を受けていました」


 そう、姿勢を正したディルクが答える。予期していなかった裏切りに、変な声が出そうになった。



 なッ………、待てよ



 魔法陣に関しては伝えていないが、嘘ではない。装飾品を考えていたことは 確かだ。意図に気付き、話を合わせる。


「何にするか、ディルクに相談してたんだ」

「それなら そうと言えば良いじゃないですか」


 “ 俺に知られたくないことでもあるのかと ”



 ゔッ…、勘が良い奴



 引き攣った笑いを指摘されないことを祈りつつ、ルカスが視線を外した隙に、サッと構成案を回収した。



◇◇◇



 後日、油断して白状したが為に、口煩く揶揄わ《からか》れることになった。



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シナリオに抗い、悪役令息を溺愛します。 空海 @kuu_sora-umi

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