23.臨時報酬
S side
王都へ戻り、レティシアをローレン公爵家に送った後、第一王子室では、ルカスが待っていた。
「おかえりなさい」
「帰っていなかったのか?」
「えぇ、終わらせたい案件がありましたから」
答えながら、スッと手を差し出す。
よこせ、ってことだな
施設管理者から受け取った報告書を手渡す。
「運営に関しては、特に問題はなかった。ただ、子供達が使っている備品が老朽化してたから、予算構成を見直すべきだ」
「経理課に申請しますか」
「あぁ、頼む」
報告書にメモを取る姿に、“ そういえば…、” と思い出したことがあった。
「ルカス、」
「はい、何でしょう?」
「今週末、空いてるか」
エマ・フォスターの一件で、ルカスの婚約者 サブリナ・エドガーには、お世話になった。
内容が内容な為に、表立って、恩に報いることはできないが、どういう形であれ、“ 何か返さなければ ”と思っていた。
しかし、機会に恵まれず、未だ実現させられていなかった。
「現時点では、特に予定はありませんが…」
“ 何かありましたか? ” と首を傾げた。
「最近、王都で流行っている“ mon ange《モン・アンジュ》 ”という店は知ってるか?」
「えぇ、フルーツを贅沢に使ったミルクレープが評判な、人気店ですね」
詳しいな、おい
別段、スイーツが好きという訳ではない此奴が、何故、王都で人気なスイーツ店を知っているか。
答えは、一つ。
「店主が、料理長と知り合いらしい。レティと行こうかと思って、予約してたんだが……代わりに行ってくれないか」
「宜しいんですか?ありがとうございます」
ぱぁっと顔を明るくさせて、二つ返事で引き受けたルカスに、思わず笑いが隠せない。
分かりやすい奴、
大方、婚約者を喜ばせたいが為に、店を調べたが、想像以上の人気に、予約が取れなかったんだろう。
“ サブリナ・エドガーは、甘いモノに目がない ”ことは、レティシアを介して、仕入れた情報だ。
誓って、彼女に興味を抱いた訳じゃない。俺は、レティシア一筋だ。
「少し席を外して宜しいでしょうか」
「あぁ、気にするな」
ガチャッ
彼奴…手紙、書きに行ったな
たとえ、予約が取れたとはいえ、婚約者が別に予定を入れていれば、意味がない。それ故、うかうかしては いられない。
コンコンッ
「失礼します」
「どうかしたか?」
入れ違いに、どこか複雑な顔をして、ディルクが現れた。
「いえ。ルカスが、にやついた顔で、足早に去っていったので、何かあったのかと 思いまして…」
「まじかッ、!」
告げられた内容に、思わず 吹き出した。ケラケラと笑い続ける俺に、大方、状況を把握したらしい。
フッ、と表情を崩す姿に、前世で妹に『誰が、かっこいいか』と質問され、『これ』と、“ ディルク ”と答えたことを思い出した。
第一王子シオン・アルフォンスと、側近ルカス・トーリを選べば、姉と妹が、色んな意味で、煩いことは目に見えている。
「なぁ、ディルク」
「何でしょうか」
「部下の為とはいえ、職権濫用だろうか」
ルカスは十七歳にして、側近を担っている。それ故、前世を知った俺からすれば、未成年が労働を強いられていることになる。異世界では、問われることはないだろうが、前世であれば、歴とした社会問題だ。
それに加えて、ルカスは優秀だ。
第一王子付きに配属されているにもかかわらず、彼を引き抜こうとする声が、消えることはない。
特に、総務課は引き下がらない。だが、経理課、法務課といった特化型とは違い、総務課では、総合的な活動が求められる。それ故、配属されれば、過労働は避けられない。
優秀な人材である以前に、ルカスは友人だ。
“ 仕方ない ”では、済まさない。
王家、延いては 国 の為に日々尽力してくれている。恋を応援したって、罰は当たらないだろう。
「いえ、そのようなことはないかと」
そう言って、ディルクは姿勢を正した。
一部下として告げられた言葉でないことを、真っ直ぐに向けられた瞳が物語っていた。
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「で、ディルクは 何が良い?」
ルカスと違い、ディルクには婚約者がいない為、これといって、案が思い浮かばない。
「私は、殿下がお相手して下されば、それで構いません」
“ 鈍ってるんじゃないですか? ”と釘を刺す。
ゔッ、……そう来たか…、
「ぜ、…善処する」
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