19.恐怖心

R side


 パリーンッ


「確認して参ります」


 学園を移動中、前方で、何かが割れる音がした。


 誘拐事件発生以降、警備体制が見直された為、外部から侵入することは不可能だ。誰かが、偶然割ったんだろうか。そう、楽観的に考えていた。


「レティシア・ローレン、!!」

「…!」


 咄嗟に視線を移すと、ふわっとした桃髪が揺れた。


 見知った可憐な容貌とは相反して、彼女は顔を歪ませていた。


「さっさと婚約破棄しなさいよ」

「…それは、フォスター子爵令嬢様が決めることではない筈です。王家に申して下さい」

「な、何よ!」


 毅然とした姿勢が面白くなかったか、血相を変えて詰め寄ろうとする。


「どうかされましたか」


 刹那、静かな空間に声が響いた。状況を確認しに行っていた護衛騎士が戻ったらしい。


 だが、彼が立つ位置からは、彼女に気づくことは難しい。


「邪魔すんじゃねぇよ!テンセイシャだろ!シオンは私がコウリャクすんだよ!アクヤクはアクヤクらしく断罪されろよ!!」


 聞き慣れない言葉に、戸惑いはしたが、

 恐怖心は抱かなかった。


 罵倒し続けた彼女は、来た道を引き返していく。


「大丈夫ですか、ッ!」


 “ 気が付かず、申し訳ありません!! ”と

 護衛に、深々と頭を下げられたが、

 彼女は、護衛が戻ったことに気づき、去っていった。


 彼の存在が抑止力になった、ということだ。


「いえ、助かりました」




◇◇◇◇◇




S side


「それで、?」

「……言わなくて、良いかな、って…」



◇◇◇



「申し訳ありませんでした、ッ!!」


 レティシアに付いていた護衛から報告を受けた。女生徒らしき声が、レティシアに不敬を働いたこと、護衛を任されていたにもかかわらず、何もできなかったことを告げられた。


「レティシアが不問にすると言っている以上、私はそれに従う」

「ですが…ッ、」

「引き続き、宜しく頼む」


 一度 失敗を経験した者は、強い。


 レティシアに恩情をかけられた今、

 彼が、最も信頼に値するだろう。



◇◇◇



「律儀に彼は報告してくれたけれど、レティはバレなきゃ、言わないでいようと思っていた訳だ」

「……何か、された訳じゃ、なかったから」


 膝に、向かい合わせに座らせ、腰に手を回す。

 俺に隠しごとをしただ。



 まぁ、俺が言えたことじゃないが



「怖くなかったか、?」

「…うん、大丈夫だったよ」

「そっか、」



 ぎゅっと抱き締めれば、華奢な腕で応えてくれる。



 どうか…、彼がいなくなりませんように



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