14.5 * アナタハ アクヤク


「わぁ…、//」


 夜会に花を添える 大きなシャンデリア。

 照明に照らされ、

 きらきらと光を反射させる 鮮彩せんさい衣装ドレス

 クラシックは、優雅に奏でられ、空間を彩っている。


 乙女ゲームをすれば、誰もが一度は憧れを抱く。


    “ 王子様に愛されたい “と。



「……最ッ高、!!」


 憧れていたオープニングに、感情が抑えられない。



◇◇◇



「シオン・アルフォンス第一王子殿下、-----」


 夢心地でいると、恋焦がれた名が

 会場全体に響き渡った。


 途端に、胸が高鳴り、心臓がバクバクと脈を打つ。


 ガタンッ


 重い扉が、ゆっくりと開いていく。動作一つ一つが、スローモーションに感じられた。


「ぁ…///」


 …彼しか見えなかった。

 この瞬間、世界には、私と彼しか存在していないとさえ思えた。


「……はぁ…、かっこいい…///」


 目前を通り過ぎた美青年に、

 叶うことが約束された恋。

 ……妄想が止まらない。



 『私と…交際してくれないだろうか』

 『君と出会えたこと以上に、幸せなことはない』

 『愛してるよ』



「……ふふ、///」


 【一瞬の永遠を、キミと 〜 聖なる魔法と恋人達ラバーズ 〜】では、オープニング後、ルート選択が待っている。


 【バルコニー】を選択すれば、

 第一王子:シオン・アルフォンス


 【化粧室】を選択すれば、

 側近:ルカス・トーリ


 【庭園】を選択すれば、

 護衛騎士:ディルク・オスト


 【壁際】を選択すれば、

 悪役令息の兄:ルーク・ローレン


 ルートごとに難易度が設定されていて、最初は、攻略難易度が低い“ 庭園ディルク ”が推奨されていたけれど、無駄な時間はかけられない。


 私にすれば、” バルコニーシオン “ 一択!!

 ……よしッ、!!




◇◇◇◇◇




「……どういうことよ…、」


 昨夜、確かに私は“ バルコニー ”を選択した。


 期待を胸に待っていたが、待てど暮らせど、シオンは現れない。


 そして、夜会は幕を閉じた。



 間違えた…、?

 ……けど、そんな筈は…


 

 理由は分からないが、取り敢えず、ルート選択後に、イベントが発生するとされる裏庭に向かった。





 けれど、彼はいなかった。


「…は、?」


 裏庭に行けば、第一王子シオンに会える筈だった。戸惑いを隠せない。次第に、苛々イライラが募っていく。



「……いない、」



「どうしてよ…ッ!!」


 まさか…と思い、生徒会室、訓練場、校門に向かうが、誰一人として、攻略対象に出会えない。


「どうすれば、どうすれば…」


 足早に廊下を歩いていく。男子生徒とすれ違った時、何かに引っかかった。



 黒髪…紫、…………ッ!!



「ちょっと、!!」


 異世界では珍しい“ 黒髪 ”

 目尻が上がっているが故に、キツく、冷たい印象を与える“ 紫眼 ”


 脳裏に、悪役令息がヒロインを罵倒し、虐げる姿がよぎった。



 悪役令息、レティシア・ローレン…、!!



 …悪役がいれば、始められる。

 だって、私は“ ヒロイン ”だから。




◇◇◇◇◇


R side


「ローレン公爵子息、!申し訳ないが、これを生徒室に届けてはくれないか」

「生徒室に、ですか」

「あぁ、今日中に提出を求められたんだが、会議で行けそうになくてな」


 そう言って、ドサッと書類を手渡された。


「頼むぞ…!」

「分かり、ました」


 せわしなく働く姿に、生徒会により設置されている目安箱に ” 先生方をねぎらう会 ”を投函しておこうと思った。




◇◇◇◇◇




 滅多に立ち入る事がない高等部は、白を基調とする中等部とは違い、ダークブラウン、ベージュといった落ち着いた色合いだ。


「…会えるかな、」


 高等部であれば、シオンとばったり会えないだろうか。ふわふわとした感情に、自然と口元が緩む。それを、咄嗟に書類で隠した。



 ……見られて、ない…よね



 周囲をキョロキョロと見渡せば、桃髪が印象的な女子生徒と視線が合う。足早に先を急いだ。


「ちょっと、!!」


 甲高い声色が、乾いた空気を切った。


「待なさいよ、!」


 ドタドタと迫る足音に、恐怖を覚えた。

行先を阻まれ、目線を合わせれば、桜を彷彿とさせる淡い桃髪が、視界に入った。



 …この子が…、編入生



「ふ〜ん、貴方がレティシア・ローレンね」


 ねっとりとした視線が突き刺さる。品定めされているようで、気味が悪い。


「大した事ないじゃん。私の方が可愛い♡」

「え、…と」


 どうすれば良いか、言葉を失っていると、


「邪魔しないでね」


 そう、少女は美しく笑った。



「え…、」


 刹那、息を呑む。


 ぞっとする言葉が、風を伝い、鼓膜を揺らした。






「私を好きになって、シオン様…//」

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