13.編入生

R side


「高等部に平民が編入した話聞きまして、?」

「えぇ、光魔法を使うとか」

「華奢で、可憐な女性だと伺いましたわ」


 学園は、編入生に関する話題で溢れていた。


 一週間前、高等部に編入生が入った。貴族階級が九割を占める王立学園に、季節外れな編入生。良くも悪くも注目されることは、明らかで、平民出身で、光属性を発現させた可憐な少女だと噂されていた。


「シオンは、会ったかな…」


 実際に会ったことはない。けれど、周囲が、“ 可愛い ”と褒め立てる少女。自ずと比べていた。


 シオンは、乙女が憧れる王子様。彼女が婚約者ならば、国民は夢物語だと、熱を上げるだろう。


 七年間、彼に相応しい婚約者でいる為に、努力し続けてきた。彼に対する想いは、相手が誰であろうと負けない。


 けれど、体裁は拭えない。ローレン公爵家な為に、表立って発する者はいないけれど、異性婚が主流だという理由で、婚約に不満を抱く者は後を絶たなかった。


 シオンを信じている。けれど、彼を囲う周囲が信じられない。



 奪われる気がして…、怖かった




◇◇◇◇◇




S side


 ヒロインが編入して、三日が経過した。運命的な出会いを演出する為か、同学年とはいえ彼女は他クラス。事前に行動パターンを知っている俺は、スケジュール、順路を変更すれば、容易に避けられた。


 一方で、レティシアは学年が違う為、ヒロインと出会う可能性は低い。だが、万が一を考えて、護衛には、それとなく“ エマ・フォスター ”を警戒させている。


 レティシアは、第一王子妃候補な為、護衛が仕えようと、違和感はない。それに、護衛であれば、事情を詮索されずに済む。


 レティシアには、初日こそ“ 何故護衛を ”と聞かれたが、“ 他国で物騒な事件が起き、被害に遭った生徒がいると聞いた ”と伝えれば、理解してくれた。それ以来、教室外を移動する際には、護衛を付けることを容認してくれている。



 欲を言えば、俺がレティシアを護衛したかった

 どう考えたって役得じゃんか



「遅くなり、申し訳ありません」

「ううん、大丈夫。本当は、俺が迎えに行きたかったんだけど…」

「いえ、そう言っていただ…」

「レティ」


 王立学園には、カフェスペースが数ヶ所設置されている。平等に扱うとはいえ、階級によって利用場所は区別されている。

 現に、此処は伯爵以上が利用可能な個室席。俺にとっては、学園で唯一、婚約者が甘えてくれる空間だ。どう過ごそうが、文句は言わせない。


「………会いたかった」

「おいで」


 ふにゃりと頬が緩む。隣席に移れば、距離がぐっと近づいた。


 腰をそっと抱き寄せれば、素直に身体を預けて、甘えてくれる。



 可愛い、可愛い、可愛いかよ……!!



「明日、一緒に王都に行かないか」

「王都に、?」

「そう、俺とデートしませんか」


 “ うん ”と嬉しそうに微笑むレティシアに、心が満たされて、そっと瞼に口づけた。

 




◇◇◇◇◇




D side


 第一王子直轄騎士団に配属され、1ヶ月が経った頃、俺は、殿下に対して、真に忠誠を誓った。


 第一王子専属護衛騎士に配属される者は、体術及び剣術に優れた伯爵以上。


 だが、例外として、男爵家出身な俺が配属された。周囲に虐げられようが、仕方がないことだ。与えられた職務を全うすれば良い。そう、無機的に考えていた。


「なぁ、ディルクって男爵家だよな」

「何で此処に入れたんだよ」

「貧乏な癖に、調子乗り過ぎ」


 鍛錬に向かう途中、先輩達が、俺を嘲笑う声が聞こえ、咄嗟に姿を隠した。


 “ 言わせておけば良い ”と心を奮い立たせはするが、意に反して、身体は動かない。精神が崩れかかっていたことに、俺自身、気づいていなかった。


「相手をしてくれないか」

「……殿下!!」


 突然、殿下に声をかけられ、瞬時に姿勢を正す。


 対戦形式にて、剣技が始められた。



「ゔ、!!」

「…かは、っ」

「ぐ…、」


 数秒後、彼等は各々身体を庇う様に倒れ込む。圧倒的な強さとセンスに見入っていた。


「護衛対象に負けるような奴等が、ディルクを馬鹿にするな」

「申し訳…ございません」

「他人を卑下するな。俺専属騎士だろう」


 そう、悪戯イタズラに笑った。



 “ 絶対的王者 ”


 当初、殿下に抱いていた印象だ。


 澄み切った銀髪に、王族を示す碧眼。

 容姿端麗で、全属性を扱う唯一無二。


 すべてを見透かす紺瞳に、温厚篤実な現国王ではなく、シオン・アルフォンス第一王子を恐れている者は少なくないと聞く。


 だが、どうだ。彼は、たかが護衛騎士一人を侮辱したという理由で……、


「あり得ないよな」


 呆然と立ち尽くす隣で、呆れるように笑う。



 この方は、確か……側近 ルカス・トーリ様だ



「公には、完全無欠な次期国王。恐れられることだって多い。だが、それは、隙を与えない為に努力されている証であって、実際は、誰より優しい考えをした方だ」




◇◇◇◇◇




「ディルク!何してんだよ、」

「今、参ります」


 視界には、幸せそうな殿下と、婚約者 レティシア・ローレン様が。


 彼等が背負う責任は計り知れない。



『……私は、殿下について行きます』



 命が尽きる、その時まで、俺は職務を全うする。



 我が主が、幸せである為に。



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