第3場・深夜の襲撃デス!<❤>

女の表情からサッと欲望の色が消えた。

外がにわかに騒がしくなり、隊長が船倉に降りてきて叫んだ。

「攻撃だ!上がってこい!!」


ニヤつき女は舌打ちすると、私を乱暴に突き放して階段梯子を上っていった。


また大きく船が揺れた。


私はフラつきながら階段梯子に近づき、身をもたせるようにしてゆっくりとのぼった。

手が使えないので、揺れが来たら放り出されてしまう。


なんとか上までよじ登り、甲板に這い出た。

あたりは闇に包まれている。

いつの間にか夜を迎えていたのだ。


と、その闇を真っ赤な炎の球が切り裂き、こちらへ向かって飛んできた。

「ぶつかる!」と思ったが弾道は逸れていたようで、炎の球は海面へと落ちていった。

だが、着水の際に生じた衝撃が大きな波しぶきを引き起こし、私は盛大に海水をかぶって震えた。

「なんだこれは?!隕石でも降ってきているのか?!」

「お前?!何をしている?!」

隊長がこちらを見て叫んでいた。

「下にいろ!海に投げ出されたら死ぬぞ!」


言い終わるかいなかのタイミングで、空の闇を突き抜けて黒い塊が隊長めがけて突っ込んできた。

隊長は腰の剣を抜き構えるが、黒い塊から伸びた黄金色の一閃が剣をあっさり砕いた。

「 !!」

隊長は片膝を付き衝撃で甲板に押さえつけられた。


黒い塊は音もなく着地した。

それは真っ黒なローブに身を包んだ人だった。

かなりの身長があり、片手には黄金に輝く戦鎚を手にしていた。

この武器が隊長の剣を一瞬で打ち砕いたのだ。


「貴様っ……!」


隊長はよろりと立ち上がると折れた剣を握りしめ攻撃に転じようとしたが、

二度目の衝撃を受けて再度吹き飛ばされた。

ローブの人が今度は戦鎚で横殴りにしたのだ。

圧倒的な力の差だった!


「プレカーリだ!!」


誰かが悲鳴をあげた。

ざわめきが闇を駆ける。

「魔術師が生きていたぞ!」


昼間聞いたばかりの名前だった。

「あれがプレカーリか!」


私の声が届いたのか、ローブの人はこちらを振り返り、驚いたように動きを止めた。

フードを脱ぐ。

プレカーリは真っ赤な髪を後ろで束ねた美しい女性だった。

そして、やや甲高い声で言った。

「…姫さま…デス!」

外国人が慣れない日本語を話しているかのような……違和感のある喋り方だった。


私はとっさに駆け出していた。

「プレカーリ!」

叫び、自分の存在を訴えた。

プレカーリならばレイナ姫の仲間に間違いない!

私を救出にきたのだ!


「そうだ!レイナ姫だ!!」


私は嬉しくてたまらなかった。

ようやく現れた味方。

しかも相当に強そうではないか……!!


──だが、彼女は予想外の返事をした。

「レイナ姫は、もうお亡くなりの筈デス!!」


「……え?」

「お前は誰デス!?」


言い終わらないうちに、赤毛の女は今度は私に突っ込んできた。

明確な敵意を感じた。

戦槌が黄金の光を引く。

「やられる!?」

私は逃げようとして大きくよろめいた。

ぺたんと尻もちをついた。


どういうことだ!?

プレカーリは敵なのか!?

もう終わりなのか!?


絶望が駆け巡る……


いや、ここは武器だ!

武器を使うのだ……!!


「殺さないでっ!」


私は後ろ手のまま身体を揺すって叫んだ。

むき出しのおっぱいがぷるぷると大きく揺れた。


「殺さないでぇーっ!]

ぷるんぷるん♪


うむ、これは最っ高にセクシー❤❤❤



……ダメだ


これにどんな威力があるというのだ。

情けなさにがっくりきたが、意外にもプレカーリは急停止した。

そのまま棒立ちになりかすかに震え、声を漏らした。

「貴様……姫のお身体でなんという破廉恥を……!!!」


と、頭上が明るくなった。

見上げると幾つもの光の玉が空に並び、船ごと大きく照らしていた。

「撃てえぇ!」

隊長の叫び声がした。

いつの間にか兵士たちが辺りを遠巻きにし、弓をつがえていた。

それが一斉に放たれた。


ふわりと、プレカーリは宙に浮くと身をよじって弓から逃れると暗闇に紛れ込む。

しかし光の玉は付きまとって居所を知らせる。

赤毛の女は何度か再突入を試みるそぶりを見せたが、降り注ぐ弓の雨に諦めたように闇に消えた。


……しばらく緊張が続いたのち……


「諸君、安心したまえだゾ!」


船の横から初めて聞く声がした。

目をやると、私の乗っている船に小型の軍船が並走していた。

船首には女性が立っていて、闇の中うっすら光をまとっていた。

光の球を操っていたのは彼女なのか……?


「ペッカー様!」

兵士たちが安堵の声を上げて船のへりに駆け寄り、船越しにひざまづいた。

ペッカーと呼ばれた小柄な女性はおかしなデザインの帽子を被り、

眼鏡をかけていた。

しゃべり方もまた変わっていた。

「これよりウィリデ領内だ。もう手出しはできないゾ。

お前たちは捕虜をアモルまでしかと送り届けろだゾ」


そう言うと、軍船は速度をあげて離れて行った。

ペッカーと呼ばれた女は、こちらを一瞥もしなかった。


「……やれやれ、ひどい目に遭った」

隊長が身体を押さえながら呻いた。

鎧は酷く損傷しているが、なんとか無事なようだ。

「まぁいい、あいつと遭遇して生きていられただけで幸運というものだ」

苦々しげに呟くと虚空を睨んだ。


私は戦槌を持った赤毛の女を思い出した。


「レイナ姫は、もうお亡くなりのはずデス!」

その声が脳内で繰り返された。


…プレカーリは味方ではないのか?

味方がなぜ私を襲ったのだ??

またしても疑問が浮かんでしまった。

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