明菜と七股女
十八歳になってすぐ、私は貯めたお金で女性を買った。それが私の初体験。自分がレズビアンであることを打ち明けたのもその時が初めてだった。あっけらかんとした態度で「私もですよ。だからここで働いてるの。色んな女の子といちゃいちゃできる上にお金貰えるから。天職ですよ」と言われて拍子抜けした。行為が終わったあと、彼女はビアンバーの存在を教えてくれた。自分以外にもレズビアンは居るのだと知れたことは大きな自信に繋がった。
二十歳になってすぐ、私は彼女が教えてくれたビアンバーに足を踏み入れた。レズビアンしか入れないわけではないが、客も店員も全員女性で、そのほとんどがレズビアンだった。初めてで戸惑っている私に、一人の女性が声をかけてくれた。最初はありがたかったが、話しているうちにボディタッチが増えてきて、ホテルに行こうと誘われた。断ってもしつこく迫ってきて困っていると、一人の女性が助けてくれた。
「女同士なら、手繋ぐくらいは友達とも普通にするかもしれんけど……でも……もし浮気とかだったら、どうしようって。姉さんに言ったら不安にさせるだけかなって悩んだけど、やっぱり心配で」
「……そうか。話してくれてありがとな」
裏切られたことに対するショックは全くなかったわけではなかったが、さほど大きくはなかった。薄々勘付いてはいたし、彼女に対する恋心もあまりなかった。彼女を抱いている時も、ずっと中学の後輩のことを思い浮かべていた。葉月ちゃんは元カノを私の代わりにすることなんて出来なかったと言っていたが、私は平気で元カノを彼女の代わりにしていた。だけどまぁ、その元カノも別に私だけを愛してくれていたわけではなかったからお互い様なのだが。
「美猫さんさぁ、私以外に彼女何人居る?」
秀明から話を聞いた数日後、彼女にストレートに質問をぶつけると、彼女は飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「え、な、なに急に」
「何人?」
「何人って、私が浮気してる前提で話さないでよ」
「いや、してるでしょ。気付いてるよ。怒らないから教えてよ。何人居るの?」
問い詰めると彼女は素直に「君を合わせて七人です」と白状した。思ったより多くて、呆れを通り越して笑った。
「七人って。もしかして、一週間毎日違う女食ってたの? 日替わり弁当かよ」
「いや、でもあの、私は全員愛してるからね? 明菜ちゃんのことももちろん。私はほら、その、なんだ、そう、ポリアモリストなの」
「ポリ……? なにそれ」
「恋人を一人に絞らない人のこと。全員を平等に愛してるから浮気じゃない」
「いやいや、複数人と恋愛するってなら、他の恋人の存在を恋人に説明するのがマナーじゃない? 隠してたならそれは浮気でしょう。私のこと騙してたんだから」
「話したって、受け入れてくれないでしょ」
「……はぁ。まぁでも、私も似たようなもんか。美猫さんは忘れさせてあげるって言ったけど、私は全然忘れられなかったよ。あの子のこと。でも……忘れられなくて良かったなって、今思った。七股するような女にガチ恋しなくて済んだし。じゃ」
「じゃって……」
「あんたとはもう会わない。他の六人の恋人と鉢合わせして修羅場になりたくないし。今までありがとね。刺されないように気をつけなよ」
引き止めようとする彼女を振り切って、彼女の部屋を出る。するとちょうど、一人の女性と鉢合わせした。彼女は美猫さんの恋人の一人だった。追いかけてきた美猫さんは彼女を見ると、スッと部屋の中に引っ込もうとした。が、彼女は足を挟んでそれを阻止する。揉めている隙をついて逃げようとしたが「あなたのことは責めないから一緒に話を聞いて」と頼まれて渋々部屋に戻る。
「で? 何人居るのよ。他にも居るんでしょ」
「七人だそうです」
「は!? 七人!? はぁ……もう呆れた……」
「私はさっき別れたから正確には六人ですね」
「……私も別れる」
「ええっ。ちょ、ちょっとぉ」
「いいでしょ別に二人くらいいなくなっても。まだ五人も居るんだし。ねぇ?」
同意を求めてきた女性に頷く。美猫さんが「みんな同じくらい大事だから居なくなったら寂しいよ」と悲しそうに訴えるが、女性は容赦なく舌打ちをした。そして彼女から元カノの名前を聞き出し、一人一人に謝罪させた。全員薄々気づいていたらしく、彼女はその日のうちに、七人居た恋人全員から別れを告げられた。七人の元カノ達は修羅場になることはなく、むしろ同じ被害を受けたもの同士仲良くなったのだった。
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