第28話:私は先生だから

 長瀬成さん。彼女は先輩と同じく、中学卒業から少し間を開けて入学してきた。年齢は今年で十八歳。本来なら高校三年生だ。間が空いた理由は不登校。中学一年の二学期頃から徐々に学校に行けなくなり、二年生以降は全く通えなかったと聞いている。クラスにもあまり馴染めておらず、なんとかしてやれないかと思っていたところ、先輩が野外学習で彼女と同じ班になると言い出した。先輩も彼女のことを気にかけてくれていたのだろうか。それはありがたいが、心配だった。先輩はいつだってクラスの中心に居て、クラスを明るくしてくれる太陽のような人だ。だけど、ずっと引きこもっていた長瀬さんには少々眩しすぎるのではないだろうかと。そんな私の心配を他所に、彼女はバスで移動する一時間弱の間に長瀬さんの心を照らした。バスに乗る前まではずっと俯いていたのに、昼食を終える頃にはちらちらとではあるが先輩の目を見て会話するようになっていた。

 その後長瀬さんは先輩と離れても、自ら進んでクラスメイトと関わっていた。いつも休み時間になっても自分の席で一人でボーっとするだけだったあの子が、だ。授業中当てても声が小さくて何も聞こえなかったあの子が。なんなんだあの人は。人たらしにも程があるだろう。

 しかし、長瀬さんはこのまま彼女と関わっていて良いのだろうか。依存してしまわないだろうか。心配していると、先輩は長瀬さんを放置して私の元へやってきた。彼女は私以外のクラスメイトとも関わるべきだと言って。それはきっと本音だ。だけどその割には私を見る目が優しくて、私の隣に居たい言い訳でもあるのではないかなんて思ってしまう。実際、そうなのだろう。先輩の好意が真っ直ぐに突き刺さる。私は今はそれに応える気はないと何度言ったって、そんなのお構いなしに一方的に突き刺してくる。

 教師と生徒とはいえ成人同士だし、生徒達も先生達も私達が両想いであることなんて分かりきっている。なんなら既に付き合っていると勘違いしている人もいる。違うと否定したって「またまたー」と言って信じてくれない人もいる。付き合ったところで、恐らく、教師と生徒なのにけしからんなんて言う人の方が少数だろう。分かっている。だけど私は、彼女の恋人と彼女の教師を両立出来る自信がない。今ですら、長瀬さんに嫉妬してしまっているというのに。恋人になってしまったらきっと、この嫉妬心がさらに増幅してしまう。あの子の、生徒達の心の成長を喜べなくなってしまう。だから私はやっぱり、今はまだ彼女の恋人にはなれない。今の私は彼女の——彼女達の成長を見守る先生だから。

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