第24話:班決め

 野外学習の班を決めることに。まずは男女に分かれて、それぞれグループを作る。一組は男女がちょうど二十人ずつ居るため、男子三人女子二人のグループが四つ、男子二人女子三人のグループが四つ。つまり男女それぞれ三人、二人のグループを四つずつ作らなければならないのだが、困ったことに女子が一人余ってしまった。どこかの三人グループを解体して誰かが余ってしまった長瀬(ながせ)さんと組めば簡単に解決するのだが、誰も名乗り出ようとしない。彼女は体育の授業でも二人組を作るといつも余る。別に嫌われて避けられているわけではないのだが、あまり人と関わるのが得意ではないタイプなのだろう。こうなることは容易に想像出来た。


「さんごちゃん、翡翠ちゃん、私抜けても良い?」


「言うと思った。良いよ。それですぐ解決だもんね。さんごもいいよね?」


「うん。ちょっと寂しいけど……」


「まぁまぁ、テントは一緒だから。というわけで長瀬さん、私と一緒でも良いかな」


 問うと彼女はホッとしたように頷き、小さく謝った。


「いやなに。こういうのはよくあることだ。気に病む必要はないよ。こういう場って、普段あまり関わらない人と仲良くなるチャンスでもあるからね。というわけで、天翔くんたち以外の男子三人組と組みたいです」


「ガーン……」


「あたしらも天翔以外で」


「なんで!? 酷くない!?」


「飯盒炊飯の時に女子任せにしそう」


「いや、俺こう見えて普段から普通に料理するからな? 料理男子三人衆だからな? なぁ?」


 いつもの二人に同意を求める天翔くんだが、和田くんは全力で首を横に振る。俺に期待しないでくれと言わんばかりに。


「マジ? 玄さん料理駄目なん?」


「苦手」


「俺も天翔もそれなりに出来るから安心して」


「こういうのはえっと……あれだ。なんだっけ」


「適材適所ね」


「そう。それ。玄さんは玄さんに出来ることをやれば良いよ。薪割りとか薪割りとか薪割りとか」


「薪割り押し付けようとしてるだけだろ」


 と無駄話をしている間にも時間は過ぎていく。


「時間取れるのはこれが最後ですよ。テント班とバスの座席も決めなきゃいけないので急いでください。時間内に決まらなかったら後で学級委員にまとめて提出してもらいますからね」


 先生のその一声で仕事が増えるのは嫌だと思ったのか学級委員が急かし始めた。とりあえず先にテント班を決めることに。テントは大きめのテントと普通サイズのテントが二つずつ。四人のグループが二組、六人のグループが二組になることを想定しているとのこと。つまり、二人グループと三人グループをそれぞれ二つずつ合体させればそれで終わりだ。そこは特に揉めることもなく決まった。私と長瀬さんは翡翠ちゃん達と一緒になった。これを機に百瀬さんも二人と仲良くなれると良いのだが。


「あとは女子グループと男子グループを合体させて、バスの座席決めだね」


「バスは最後にして、とりあえず班決めちゃおうか。どうする? いっそくじ引きにする?」


 学級委員の提案でくじ引きをすることに。結果、翡翠ちゃん達はいつもの三人を引き当てた。私達のお相手は、剣道部の宮本みやもと小次郎こじろうくん、同じく剣道部の佐々木ささき武蔵むさしくん。宮本武蔵と佐々木小次郎ではなく、宮本小次郎と佐々木武蔵。ややこしい名前だ。そしてもう一人は、英語研究部の仁山にやま素晴すばるくん。宮本くんと佐々木くんは小中学校は別だったものの、同じ道場で育った幼馴染らしい。


「へぇ。仁山くんは?」


「二人が通ってた道場の師範がうちのじいちゃん」


「何それ。面白い関係だな君たち」


「そっちこそ、珍しい組み合わせだけどどうしたの」


「わ、わたしが余ったから……」


 申し訳無さそうに手を挙げて説明する長瀬さん。別に私は気にしてないのだけど。どうも彼女は自己肯定感が低いようだ。何もしていないのにごめんなさいと言われるのはなんだか、私がいじめているみたいでモヤモヤする。男子三人もなんだか気まずそうだ。とはいえ、悪いことしてないのにむやみに謝るなよと説教するのは逆効果だろう。出来るだけ自然な形で、この謝る癖を直せていけたら良いのだが。


「よし。長瀬さん、バスの席隣にしよう」


「えっ、な、なんで?」


「嫌?」


「う、ううん……でも、わたしなんかの隣で良いのかなって……」


「そうか。嫌じゃないか。ならよし」


『わたしなんか』という卑屈なフレーズは敢えてスルーする。いちいち卑屈な言い方するなと突っ込んだところで、余計に怖がられてしまうかもしれない。まずは私が自分に危害を加える人間ではないということを、頭ではなく心で分かってもらわなければ。


「窓際と通路側どっちが良い?」


「えっ、あ、えっ、えっと……ど、どっちでも……」


「じゃあ私が窓際もらっちゃうよ。良い?」


「う、うん……」


「どの辺りが良い? 私が勝手に決めて良い?」


「お、お任せします……」


「おっし。じゃあ葉月ちゃんの後ろな」


 本当は隣が良かったが、残念ながらそこは指定出来なかった。先生の方から「ええ……」と嫌そうな声が聞こえてきたが多分気のせいだろう。


「長瀬さん、当日は三日間よろしくな」


「う、うん……よろしくお願いします……」

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