第15話:先輩なんて大嫌い

 入学式から三週間。明日からゴールデンウィークに入る。前半三日間、間に三日挟んで、後半四日間。この間の三日間を有給にして連休を繋げる先生もいるが、担任を受け持っているとなかなかそうもいかない。とはいえ、真ん中三日間以外は普通に休める。


「あー……休みだぁー……」


 家に帰るなりベッドに直行する。まだ新学期が始まって三週間ほどだが、そのたった三週間で一年分の疲れがドッと押し寄せてきた気がする。先輩のせいだ。先輩が揶揄うから。生徒だから特別扱い出来ないなんて堅いことを言ったから、怒っているのだろうか。分からない。彼女の考えることが。本気なのか揶揄っているのかどっちなんだ。そして私は彼女とどうなりたいんだ。

 私の手を取って『好きだよ。葉月ちゃん』笑いかける彼女。存在しない記憶。存在しないけれど、何度も夢に見た。彼女と手を繋いで、デートをして、キスをして——。その先のことも、夢や妄想の中で何度もした。その度に私は最低だと自己嫌悪に陥った。そんな日々はいつの間にか終わったはずなのに、先輩と再会したあの日からまたあの日々を繰り返している。自分の指を彼女の指に見立てて自分を慰める日々が。

 今も濡れた手を洗いながら、最低だと自分を責めている。先輩は、こんな私を知っても尚諦めずに居てくれるだろうか。

 って、いやいや違う。諦めてもらわなきゃ困るんだってば。


「はぁ……もうやだ……先輩なんて大嫌い……」


 洗面台に吐き捨てた言葉とは裏腹に、心臓は叫ぶ。先輩に会いたい。抱きしめたい。抱きしめられたい。キスしたい。キスしてほしい。触れたい。触れてほしい。先輩への恋情を、止めどなく叫び続ける。一体どうしたらこの騒がしい心臓を黙らせられるのだろう。

 ため息を吐いてベッドに戻る。今年のゴールデンウィークはゆっくり休める気がしない。先輩のせいだ。

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