あの子は、

家族が増えた。かわいい娘だ。

ただ、彼ら夫婦の子ではない。息子の子だ。


どうやら息子の婚約者はその後、彼女の実家へと戻ったらしい。だが彼女の両親もまた、悪党の血を継ぐ孫をよくは思わなかった。

それに狭い街の話だから、噂は噂を呼び、居た堪れなくなった彼女は街を出た。


その後は都会に出て掃除婦になった。彼女の美貌であれば、もしや富豪との結婚なんてのも夢じゃあなかったかもしれない。ただそれでも、彼女は自分の腕一本で娘を育てると決めた。

ただ二束三文の薄給では、彼女の分までとても手が回らない。とうとう身を持ち崩し、病に臥せってしまった。両親が彼女を見つけた時にはもう、手遅れだったらしい。


子供の扱いに困った両親は、噂に聞いたこの子の父親の元へ帰すことにした。

・戦争の英雄の息子

・残忍な悪党の息子

・良い家庭の真面目な息子

・悪漢の血を継ぐ放蕩息子

どれも本当で、どれも嘘。ただもう、両親には自分を責める気力などなかった。

「お前が、娘にこんな仕打ちをさえしなければ。さあ、あの子を返しとくれ。」

娘が帰ってきたあの日、自分達が投げかけた侮蔑さえ、覚えていられなかった。


ベッドに眠る我が子を、息子は一瞥する。ついに自らの罪と向き合う時が来た。

父の罪に固執するがあまり、歪み切ってしまった彼が。彼女に誓った真実の愛を、父の罪と天秤にかけてしまった彼が。

父を憎むあまり、自らの正義さえも顧みずとうとう罪を犯してしまった、彼が。



それから家族の仲は、少しばかり形を変えた。母と息子は手を取りあい、互いを許すことにした。息子さえ蝕む自らの罪に苛まれる夫を、妻は赦した。息子は朝から晩までつきっきりで娘の世話をした。時折は母に助言を貰い、娘は健康に育った。くしゃくしゃだった泣き顔も、今や「彼女」にそっくりである。こうして息子は父になった。


そしてそんな最中に、「彼」は家を出た。









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