あの時、
彼は悩んだ、置いてきたはずの過去を。風化しつつあった恥ずべき罪の爪痕を。ここにきて彼ら家族を苦しめる、彼自身だけの、個人的であったはずの許されざる罪を。考えてもみろ、彼を許したのは「彼の住む国の司法」、たったそれだけである。それだけのことなのに、彼はすっかり、さっぱり身綺麗になったつもりになってしまっていた。
…。
戦前、彼が小さなギャングを率いていたあの頃。とある一軒の家に盗みに入ったことがあった。都会のはずれにあったが、それなりに大きな屋敷だった。
深夜、信頼できる部下たち数人を連れて屋敷に押し入った。見張りを撃ち殺し、下男を脅し、メイドを犯した。そしてあっという間に、屋敷の主人とその家族がいる寝室の前にたどり着いた。
彼の右腕だった隻眼の男が、家族のいる寝室のドアをこじ開ける。その刹那。
隻眼の男はドアごと、後方に吹き飛ばされた。おのれ仲間を!首領たる彼の怒号を合図に、すぐさま寝室に向けて四方から激しい銃撃が行われる。
やがて弾が切れ、屋敷の中が突如シーンと静まる。彼は先陣を切って寝室に踏み込む。
どうやら隻眼の男を撃ったのは父親らしい。散弾銃を抱えたまま、窓まで這ってそこで息絶えている。二人の娘のうち一人は父親と固く手を繋いでいた。母親はあの銃撃の中、最後まで抵抗したのだろう。手に持ったリボルバーは弾倉が空になっていた。幼いもう一人の娘は母の下敷きになっていた。
そこからのことは、もはやあまり思い出せない。ただ、仲間達すら差し置いてその場から逃げた。彼はなぜかここにきて、自分がやったことの恐ろしさを突きつけられたような気がしたのだ。
「なぜ自分は、仲間が殺されて、それに憤ることができたのか?」「仲間たちとの間にあった信頼とは、何を礎にしていたものなのか?」
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