彼女は、

彼はその昔、凶状持ちの悪党・名うてのガンマンであった。

悪党のやることは残さずやったし、善人のやることを悉く憎んだ。

だが、そんな彼も国を守ろうと戦争に出た。そして彼はそこで初めて、自らの信じていた悪党の矜持、その全てを見失った。それほどに戦争は、愚かで悪辣なものを彼に見せたのだろう。


彼はその向かう先のない憤りを、そのまま敵にぶちまけた。

ただその銃弾が、彼らの背後よりはるか遠くにいる、かの極悪に届くことはないということも彼はわかってしまっていた。彼は日に日に落ち込み、目に見えてうらぶれていった。

妻とは、そんな最中に出会った。ひとの醜さに瞳の濁り切った彼には、彼女の美しさが余すことなく、その瞳を透き通ってわかった。彼は彼女の、善いことの悉くを理解したのだ。


戦争から帰ってきた彼はもう罪人ではなくなっていた。その軍神の如き活躍に恩赦が出て、その上いくつかの勲章までもらったのだ。

過去の全てを戦場に置いてきた彼は、その戦場で出会った彼女と結婚した。

彼女は戦場にいたどの将校よりよっぽど気高く、うわべだけのスローガンのどれよりもよっぽど正しかった。やがて二人はかの町の誰よりも気高く、正しい二人になった。

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