第98話 暗殺者、密会を受ける。
聖竜が死んでから数日が経過した。
その間も第一王子は城に籠り、第三王子をけん制し続けた。
スタンピードは幸いにも王都周辺のみだったので、物流に大きな被害はなく被害にあった者達以外の国民は普通の生活を送っている。
王都の復興も非常に早く動けたのは、国や貴族ではなく、教会とナンバーズ商会が全てを仕切れたおかげでだ。
「ダークさま。第二王子が国境を越えたそうです」
「ふむ。あの国境をよく越えられたな」
「はい。どうやら山を通り抜ける洞窟があったようです。以前、ビラシオ街を襲った闇ギルドの組員が使っていたと思われます。そちらは第二王子が通り抜けた時点で向こう側から破壊されてもう通れないようです」
「神風は無事か?」
「はい。当たっていた神風は全員無事です。闇ギルドとのぶつかりもありませんでした。洞窟を越えていれば大きな被害になっていたと思いますが、
「うむ。神風やアハトにはゆっくり休むように」
「かしこまりました」
「学園の調査はどうなった?」
「残念ながら進展はありませんでした。ご学友のロスティアさまはやはり失踪。そちらの姿は確認できませんでしたが、恐らく隣国かと思われます。さらに消えた教師ですが、そのあと驚くほど足跡が残っておりません。家もなく学園の教師寮に長年住んでいたそうですが、部屋はもぬけの殻で、最初から誰も住んでいなかったようなものでした」
「ふむ……」
Dクラスの担任のベラル。王都学園に四十年間勤めていた彼が姿を消した上に、ロスティアが魔剣を持って消えたことが偶然というのはおかしい。
現在、学園は通常通りになったが、Dクラスは取り潰しが決定した。
担任であるベラルがいなくなったことと、ロスティアもいなくなり生徒数の減少、本来ならAからCクラスでの運営が普通だ。学園はこの機に無理にでもそう持っていった。
もちろん、Dクラスの全ての生徒は各クラスに編入されることになった。
俺とイヴ、聖女はAクラスへ、他の生徒も半数がBクラスに、残りはCクラスに編入。これは学園始まっての快挙としていろんな貴族達が噂するようになった。
その上で受け入れられた理由はもう一つ。
元Dクラスメンバーがガブリエンデ家への橋渡しになり、BとCクラスの面々もパーティに参加するようになり、多くの貴族がガブリエンデ家に近づくようになった。
これは第二王子の隣国への逃亡と、第一王子の王城立てこもりがいずれ終わると見た貴族達の判断だ。
その日の夜。
「アダムさま! 大変です」
顔色を変えてリアがリビングに入って来た。
彼女が慌てるなんて只事ではないな。
「どうした」
「お忍びということで、ブラムス伯爵さまがお見えになりました」
「ブラムス伯爵!? また珍しい方が……すぐにお通しするように」
「かしこまりました」
ブラムス伯爵は父が世話になった伯爵で、王から褒美をもらったときのパーティで紹介された者だ。
すぐに貴賓室に向かう。
少ししてリアがブラムス伯爵を連れて貴賓室にやってきた。
「夜分遅くにすまない。ガブリエンデ子爵」
「いえ。よくいらしてくださいました。伯爵。どうぞ」
伯爵が向かいのソファーに座り、俺も座った。
メイドがすぐにお茶を出して部屋から出て静寂に包まれた。
ゆっくり紅茶を飲んだ伯爵が俺を真っすぐ見つめる。
「今日やってきたのは他でもない。頼みがあってだ」
「両親がお世話になった伯爵の頼みとあらば、どんなことでも力になりましょう。どうぞ、何なりと仰ってください」
「嬉しいことを言ってくれる。どうやらナンバーズ商会が第三王子を匿っているとの噂を聞いてな。現在第一王子が王城に籠っているのは知っているな?」
「ええ。ナンバーズ商会から事情は聞いております」
「ではここからが本題だ。第二王子の行方がわからないが、おそらく隣国に向かったと思われる。となると、隣国から第二王子を理由に我が国に堂々と攻め入る口実を与えたことになり、これから――――戦争になると思われる。その前に、誰かが王の座に着かなければならない。それが――――陛下の考えだ」
「なるほど……伯爵がここに来てまで話すということは、第三王子を玉座に?」
「ああ。第三王子は野心家だ。だが、それは王の資質でもある。国外逃亡の第二王子はともかく、今の第一王子の行動に多くの貴族は付いて行こうとしないだろう。シグムンド伯爵家の失墜で後ろ盾を失った。なりふり構わずにやっているが、それは悪手だ。もう国を導き手は……第三王子しか残っていない。だが……第三王子は最初からガブリエンデ子爵家と繋がりを持とうとしていた。今のナンバーズ商会や其方との繋がりは王国内でもっとも大きな力となるだろう。第三王子の選択こそが正解だったと言える」
「それがイングラムさまの王の資質……」
「そうだ。アダム子爵。陛下からの命だ。イングラム王子を王城に招き入れよ」
一通の紙をテーブルに置いた。
そこには確かな王家の家紋に陛下の名が刻まれていた。
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