第77話 クラスメイト達が必死に勝利を求めた理由
初めての合同試験が終わりを迎えた。
二年生も三年生もみんな各々の実力を惜しみなく発揮した。
ただ、中でも二年生と三年生のAクラスメンバーの選抜と言われている上位三人と姉との手合わせでは、姉の圧勝で終わりを迎えた。
パフォーマンスなどではなく、本物の実力差だ。
噂によれば、エンペラーナイトのアルヴィンもそうであったとのことだ。
翌日。
教室ではクラスメイト達がソワソワしながら待っていると、扉が開き、全員が入って来る
先生に注目する。
「ほっほっほっ~若いものは元気よのぉ~」
「先生! 結果発表をお願いします!」
「ほっほっほっ~みんな、合格じゃよ~」
「「「やった~!」」」
みんなその場で立ち上がり、ガッツポーズをする。
クラスメイト達はAクラスの生徒に負けたものの、実力をしっかり示せたということだ。
そして、みんなの視線が先生からイヴに集まった。
「あら? 皆さん? そんなに見つめられると恥ずかしいですわ~?」
「イ、イヴさん! 約束……守っていただけるんですよね!?」
「うふふ。みんなそんなに欲しかったのですわね~」
「も、もちろんです! このためにも必死に頑張りましたから!」
イヴが俺を見つめる。
「アダムさま~? いつになさいますか~?」
「明日でも構わない」
「は~い。みんなさ~ん。明日ですわよ~」
「「「「うおおおおお~!」」」」
そんな単純なことで盛り上がるとは、人というのは不思議なものだな。
◆
翌日。
学園は休みだが、屋敷は慌ただしい動きを見せる。
屋敷の会場には広いテーブルにナンバーズからの食べ物や屋敷で作られた美味しそうな料理がずらりと並ぶ。
お昼頃、何台もの馬車がやってきた。そこから降りたのは、他でもないクラスメイト達。
「うおおおお! ナンバーズの紅茶クッキーがこんなにある!?」
「好きなだけ食べていいですわよ~」
「イヴさん!? め、めちゃ綺麗……」
「うふふ。ドレス姿は初めてですわね~さあ、飲み物もたくさんあるので、みんなで乾杯しましょう」
クラスメイト達がみんな顔を赤らめてイヴに見惚れている。
「アリサさまはその格好で良かったのですか?」
「へ? え、ええ。私の正体がバレてしまうと、学園に居れなくなりますので……」
地味なドレスにいつもの瓶底眼鏡。
彼女の美貌ならイヴにも引けを取らないはずだが、事情があるのなら仕方がない。
そして、彼女の隣に立つのは、同じく地味なドレス姿の聖騎士ティナ。護衛も兼ねて参加してもらったが、彼女も普通の人と比べれば美女であることは変わりない。
何人かのクラスメイト達はちらちらとティナを見ては鼻を伸ばす。年齢差があり、大人の魅力に惹かれているのだろうな。
それから入ってきたのは、色とりどりのドレスを着た綺麗な女性たちが十人程入ってきた。
その正面に立つのは、美しい水色の髪をなびかせて、絶世の美女と言っても過言ではない我が姉である。
「アダムぅ~」
「姉上。今日はとても綺麗ですね」
「えっ!? えへへ~。アダム~紹介するね? 同級生の皆さんよ」
それから一人一人紹介を受けた。
「アダム・ガブリエンデ子爵です。本日は合同試験合格のパーティーに参席してくださり大変光栄でございます。皆さまがゆるりと過ごせるようにいろんなものを用意しております。必要な物がございましたら、メイドに何なりと申し付けください」
姉の同級生達は、貴族挨拶で応えてくれた。
パーティーが始まり、クラスメイト達と姉のクラスメイト達が自己紹介をし合ったり、並んだ料理を堪能し始めた。
俺もしばらくお客さまの対応に追われた。
そのとき、二人の女性が入ってきた。
「あら? 今日、パーティーだったみたい……私達はお邪魔になるだろうから、帰りましょうか」
入ってきて驚いた彼女達はそっと帰ろうとしたが、急いで入口に向かい、彼女達を止めた。
「リゼさん。シーナさん。いらっしゃいませ」
「アダムさま、ごめんなさい。場に水を差してしまいましたね」
「いえ。リゼさんに来て欲しいと頼んだのは僕の方ですから」
「アダムさま……」
「シーナさんもいらっしゃいませ」
「う、うん。迷惑かけたみたいでごめんなさい」
「迷惑だなんて。急な用事ではないようですね」
二人は肯定の意味を込めて頷いた。
すぐに姉もやってくる。
「もしよろしければ、二人も参加されませんか?」
「私達もですか? ですが……私達は冒険者で……」
そう話すと、後ろでクラスメイトの一人が声を上げた。
「おお! Sランク冒険者のリゼ様だ! すげぇ~!」
すぐに黄色い声が上がる。
さすがはリゼ。貴族にも有名なようだ。
「僕と姉上のクラスメイト達です。ぜひ参加してくださると、僕も嬉しいです。シーナさんも」
「ほ、本当にいいのですか?」
「ええ」
「でもこんな格好じゃ……」
確かに衣装はパーティーに参加できるようなものではない。
猫みたいにニヤニヤしていた姉が声を上げる。
「それなら私のドレスを貸してあげる!」
「ソフィアさま!?」
「それはいい考えですね。姉上。リゼさんとシーナさんをお願いします」
「任された!」
キョトンとした目になったリゼの背中を姉が押し、二人は会場から一度姿を消した。
戻ってくると、ちょうど細男が待っていた。
「アダムくんって本当にすごいんだね」
「そうか……?」
「そうだよ。ソフィアさまの弟君だけでもすごいのに、Sランク冒険者と普通に話せる仲だし、こんな高価な物もたくさん並んでるし」
「ふむ。ロスティア達は普段どうしてるんだ?」
「こういうパーティーを開けるのはほんの一握りだよ。何せ、金がかかるからね。だからどこかの子爵家や伯爵家と繋がりを持って招待されるのを待っているんだけど……ほら、うちのクラスってDクラスでしょう? それだけでもう招待されなくなるんだよね」
「そうだったのか。ロスティアも誘われていたのか?」
「ほへ? 僕? ……え、えっと……う、ううん」
少し困ったような顔を浮かべる。
「あ、アダムくん。ちょっと……相談があるんだけど……ダメかな?」
「構わない。場所を変えよう。外のテラス席なんかがいいんじゃないか」
「うん。ありがとう」
細男とテラス席のある外に出る。
それにしても彼が着ている高級正装はどこか着せられている感じがして、あまり似合うものではないな。
振る舞いからも普段から着慣れしていないようだ。
テラスに出ると優しい風が吹いている。
「わざわざごめんね? え、えっと……アダムくんにとっては困るかもしれないけど……これ……」
そう言いながら、箱を一つ俺に渡してくれた。
箱を開けると、少し高そうな青色の宝石が入っていた。
「これは?」
「えっと、贈り物……?」
「なるほど。寄子になりたいということか」
「ご、ごめんね。迷惑……だよね……」
「事情を聞いても? ロスティアが望んでやってるようには見えないからな」
少し目を見開いたロスティアは、どこか辛そうな表情を浮かべた。
「僕、ライオット男爵家の……一応長男なんだけどさ。正式な子供ではないんだ。母さんはお父さまの
「なるほど。だったんだとは?」
「お父さまと正妻の間に息子が生まれなくて、妾だった母さんの間で僕が生まれて、僕が家を継ぐはずだったんだ。それが十年前に正妻が男の子を産んでしまって、僕は継げなくなったんだ。ただ……いろいろあって、母さんは数年前に亡くなって、僕はロスティア男爵家でずっと過ごしているんだ。実は今回の試験で落とされて廃嫡になる予定だったんだけど……合格してしまって……」
ロスティアの環境。何も彼だけがそういう環境にいるわけじゃないことは知っている。こういう環境の貴族と妾の子供は何人もいる。とはいえ、多くはない。
まさか、ロスティアがそういう環境で育っていたとはな。
「……ロスティア。君はどうしたい」
「ぼ、僕?」
「ああ。父ではなく、君自身がどうしたいかだ」
「……僕は……ズルいかもしれないけど……アダムくんにもいろんなことを教えてもらって、いつもよくしてもらって助けてもらったから……僕に何ができるかわからないけど、アダムくんの寄子になることで何かお返しができたらいいなと思ってるよ」
「ふむ。ではこの宝石はもらうとしよう」
「えっ! いいの?」
「ああ。それに僕も姉上も子爵になったばかりで、寄子は全くいないんだ。増えてくれるといろいろ助かるさ。今日のようなお茶会にも人がいるのが大事だからな」
「うん……! お父さまもこれからパーティーに参席するようにと言っていたから、僕なんかでよければいつでも呼んでね」
「ああ。よろしくな」
解決したので中に入ると、ちょうど扉が開いて入ってきたのは、リゼさん達だった。
「アダムさま……に、似合いますか?」
「…………」
「アダムさま?」
「いつもの凛々しい姿もとても似合いますが、まさか、これほど可憐な姿も見れるなど……息を吸うのも忘れてしまいました」
リゼは両手で口を押えて顔を真っ赤に染めた。
……姉よ。こういうことを言う必要は本当にあったのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます