第57話 暗殺者、魔力量に驚かれる。
「アダム様。お久しぶりですね」
「教皇さま。お久しぶりでございます」
「いつもアリサと仲良くしてくださりありがとうございます。彼女から毎日のようにアダムさまの話を聞かされております」
「教皇さまっ!」
聖女が顔を赤らめて声を上げる。それを慈しむような笑みで見つめる教皇。二人の姿は不思議と親子のようにも思える。
そのとき、正面から一人の聖騎士が入ってきた。
「教皇様。流行り病の件ですが、どうやら以前から下層で流行っていたそうです。ただ、知っている者から、感染はしなかったと話しています」
「感染はしない……ですか。これだけ広まっているのに不思議ですね」
「はい。それに進行も非常に遅いと聞いております。発病したら死に至る病気だったようですが、下層でしか流行らなかったこともあり、表には出てこなかったようです」
「そう……でしたか。教会が下層に入れないことをいいことに、そちらで研究していたようですね」
ん? 教会が下層に入れない……?
「不満を口にしても仕方がありません。進行が遅い病気という情報はとてもありがたい。ではこれから私とアリサで病気を治していきましょう」
「教皇さま。僕も微力ながら手伝わせていただきます」
「アダム様……感謝します。とても心強いです。ではこれから聖騎士の皆様は患者さんたちの整列を頼みます」
「かしこまりました」
奥にある礼拝堂から移動して、聖堂に入る。そこは大勢の人でごった返していた。全員が体に黒い斑点が浮かんでいるが、うろたえる者は一人もいなく、全員が静かに祈りを捧げている。
「さすがはテミス教です」
「ありがとうございます。テミス教の信者はみな、女神様を崇高しております。祈りを捧げ、己を捧ぐ。そうやって幾度も奇跡を起こしてきましたから」
「ええ。父や母から聞かせていただきました」
「それはとても嬉しい――――アダム様。我々はいつまでも貴方をお待ちしておりますので。では、本日はよろしくお願いいたします」
祈りを捧げている信者たちに三人で手分けをして回復させていく。
俺の回復魔法。黒いサバイバルナイフを差し込む必要があるのだが、信者の誰一人、拒否したり、少しも嫌がる者はいなかった。全員が女神に感謝を口にする様は、ある種、恐ろしいものとさえ思えるほどだ。
彼らはテミス教のためなら命を投げ捨てることも厭わないだろう。それほどまでに教会の存在は彼らにとって大きいのだと、再度認識することができた。
――――ならば、なおさら今回の一件は
聖堂に入った全ての信者が回復した頃。教皇と聖女の額にはいくつもの汗が浮かび上がっていた。
「では一度休息を取ります。第二陣の準備を進めてください」
「かしこまりました」
教皇と聖女と俺は一度聖堂を離れて、裏手にある部屋で休息を取った。
第二陣の回復が始まり、三人で手分けしてまた多くの人を治した。
黒薔薇病。感染もしなければ、進行も遅い代わりに、強力すぎるが故に回復魔法でも治せるのはごくわずか。
この場に俺と聖女がいなければ、教皇一人でしか対応できないほどに強力だ。他にも回復の使い手は多くいるが、彼らでは治すことはできない。
第二陣が終わり、また休息を取り、第三陣の回復を終えて、また休息を取る。
教皇も息を荒く吐いているが、聖女はすでにぐったりしている。
「アリサ……次は休みなさい」
「で、ですが……」
「このままでは魔力欠損症で倒れてしまうわ。そうなれば、辛いのはアリサだもの……それに焦る必要はないわ。進行が遅いこともあり、まだ猶予はあるのだから」
「は、はい……」
肩を落とす聖女。
「アリサさま。貴方の分まで僕が頑張りましょう」
「!? アダムさま……はい……」
顔が真っ赤になるくらいには疲れている。魔力欠損症となると、気絶してしまい、起きるまでの時間ロスの方が大きい。それなら休んでもらう方が最善というものだ。
「それにしてもアダム様は相当な魔力量をお持ちのようですね」
「ええ。幼い頃に魔力を増やしております」
「増やした!? まさか……魔力欠損症を繰り返されたのですか?」
「ええ」
教皇も聖女も目を大きく見開く。
「驚きました……魔力欠損症は、魔力を上昇させてくれる代わりに、一度陥った者を気絶させたうえで、その期間ずっと激痛を与え続ける。魔法を使う者にとって最も厄介なものだというのに……」
ああ。そう言われると、確かにその通りだが……痛みなど、一時のものに過ぎない。魔力が増やせるなら頭痛などの痛みを受けることくらい大したことはない。それに自らの魔法で回復を繰り返せるのも大きかった。
「アダムさまは魔力欠損症に向き合ったのですね……あら? そうですと……魔力検査でどうして魔力なしになったのでしょう?」
「さあ……僕も理由はわかりません」
「ふふっ。やっぱりアダムさまってすごい方です!」
いや、俺がすごいなんてことはない。むしろ、気付きを与えてくれた姉の方がずっとすごいのだと思う。
そのときだった。
慌てたノックが聞こえ返事をすることもなく、すぐに聖騎士の一人が入ってきた。
「教皇様! 休息中に大変申し訳ございません。大至急、会っていただきたい者たちがございます」
聖騎士の慌てたただならぬ気配に教皇の表情が強張った。
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