第56話 暗殺者、寄り添う。
「ダ~クさま~ぁ~♡」
陽気な声で軽い足取りで走って来る
「
「えへへ~ゾルディックの首領をお連れしました~」
男はゆっくり目を開けて俺を見つめた。自ら死ぬことすら許されず、その目からは絶望をした人間のものが伝わってくる。
「他の連中はいらないと思って、全員処分しちゃいました~」
「ああ。構わない」
盗賊ギルド『ゾルディック』が『王国商会連合会』から依頼されているのを証言してもらう必要があったのだが、黒薔薇病の一件でその必要もなくなった。
元々予定していた計画よりもこちらに有利な方に進んでいる。ゾルディックの連中から何か深く聞き出す必要はないと考えると、下手に生かすよりはいい。
「ダークさま~どうやらゲンロウはこちらに潜伏はしていないようです~」
「そうか。となると、王国商会連合会の方か、はたまた別な方か……」
「ここには彼に関する足跡はいっさいありませんでしたから、王国商会連合会でもないかもしれませんわね。ダークさま? 最後の首領はどうなさいますか?」
全身を震わせて俺を見つめるゾルディックの首領。彼一人にも相当強い気配がするが、覚醒した
証言の必要もなくなった。となると生かす価値はないのだが――――ある意味では、このまま楽にさせてしまうのも微妙か。
盗賊ギルドともなれば、それなりの悪事を働いてきたはずだ。現に、表の物々しさと、こちらの地下に作られた場所の家々から漂う雰囲気からも、闇そのものを感じる。
「楽に死なせたくはないな。ただ、何かをさせることもない。彼には――――生き残ってもらおう」
「生かすのですか?」
「ああ。但し――――
「うふふ。かしこまりました~では私はこのまま彼を返してきますわ~」
「ああ」
またピクニックにでも行くように、スキップしながらゾルディックの首領を連れてどこかに向かう
俺も洞窟を出て、ナンバーズ商会に向かった。
◆
「ダークさま。研究を進めております。いただいたデータが正確なものであり、詳細に書かれたこともあり、すぐに解決できるものだと思われます」
「うむ」
「それと一つ耳に入れたいことがございます。王都中に広まった『黒薔薇病』ですが、そのせいもあり、大勢の王国民と貴族が教会に殺到しているようです。中にはダークさまを探している連中もいるようです」
「ずいぶんと対応が速いな?」
「はい。おそらく、後ろで王国商会連合会が絡んでいるんだと思われます。黒薔薇病の存在は彼らも知っているでしょうし、誰よりもその危険性を知っているからこそ、情報を広めたものと思われます」
「うむ。では俺はこのまま次の作戦に向かう。
「ははっ! お任せくださいませ」
そして、俺はその足で教会に向かった。
建物の屋根を伝って教会を目指す中でも、大勢の民が黒薔薇病によりパニック状態になっている。
まだ王都に広まって一時間も経過していないが、中には自暴自棄になっている者もいる。
人というのは、緊急時こそ冷静に判断できず、己の利益だけを追求するものだなとつくづく実感する。
やがて教会が視界に入る。
そこには無数の民たちが列をなして祈りを捧げていた。
人が生に執着するのはごく当たり前のことだが、それはやがて暴徒と化す危険性まである。
ごく一部のそういう連中もいるのだが、教会に突撃しないのは、世界最高戦力でもある聖騎士が教会を守っているからだ。
近くに降りて『影外套』を解除して、急いで教会の裏口を目指す。
聖女アリサから教えてもらった裏口で、教会から少し離れた普通の家だ。
扉をノックすると、内側から「どちら様でしょう」と声が聞こえる。
「アダム・ガブリエンデです。アリサさまに場所を聞いております」
そう話すと、すぐに扉が開いて、中から普通の衣装をみにまとった女性が中に誘ってくれた。
彼女は何も話すことなく、家の暖炉の下の床を開けた。そこには地下に繋がる階段が見える。
「こちらの階段で中に入れます」
「ありがとうございます」
「いえいえ。アリサ様をよろしくお願いいたします」
彼女は深々と頭を下げた。
ランタンの灯りを受け取り、階段を降りて地下路を通っていく。
人ひとりがようやく通れそうなくらい狭い地下路で一本道になっているが、意外にも清潔に保たれていて、虫一匹姿が見えない。
地下路を歩き進み、また階段が現れて登っていくと、教会の内側にたどり着いた。
「貴殿は?」
すぐに一人の男性がやってくる。白い鎧を身にまとった彼だが、鎧には見覚えがある。以前、聖女の守っていた女聖騎士の鎧と同じものだ。
「聖女アリサさまの同級生、アダム・ガブリエンデと申します」
「貴方様が……なるほど。では私に付いて来てください」
彼に付いていき、奥にある礼拝堂の建物に向かう。
以前父と一緒に来たときに、教皇と出会った場所でもある。
中は相変わらず静かな空気が広がっており、天井から一筋の光が中を照らしており、神秘的な光景が広がっている。
そんな中、俺が入るとすぐに美しい金色の髪を輝かせた可愛らしい少女が目を大きくして走ってきた。
「アダムさま!」
「アリサさま。どうやら王都が大変なことになっているようで」
「はいっ……どうやら流行り病が急速に広まっているようでして……」
「そのようですね。僕にできることがあるなら、力になりましょう」
「っ!? あ、ありがとうございます! わ、私……すごく嬉しいです!」
両手を祈るように重ねて満面の笑みを浮かべた彼女は、美しさも相まって天使のようだった。
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