第55話 暗殺者、全てが計画通り進む。
洞窟中央の泉が変貌したルアンの青い血で色を染めた。
俺は真っ先に洞窟の脇に設置されている研究設備に向かった。
そこには実験用試験管、データを記入したと思われる紙、試験用道具がたくさん並んでいる。
紙を手に取り、内容を素早く読み込む。
『
被験者の名前の中で見慣れた名前を見かける。
『Sランク冒険者レメ』『重症』『特記事項あり』
それからは彼が復活したこと、その理由について憶測がいくつにもなって書かれていた。
驚くべきは、その中に俺と聖女アリサの名が書かれていたこと。
Sランク冒険者だから俺か聖女アリサに多額の金額を払い回復魔法を受けたのではないかという憶測が書かれて、さらにそれから数日後に俺の屋敷で働くことが決まったことに対いて謎が多いと記載されていた。
それからは研究対象にアダム・ガブリエンデも入っており、黒薔薇病とは関係なく調査報告書まで用意されていた。
ビラシオ街の惨劇のときから既に違和感を覚えていた。いや、姉が暗殺されかけたときからそう思っている。
いくら個人とはいえ、そう簡単に隣国を越えられるか? 国境に塀があるわけではない。兵士の目をくぐり抜けて中に侵入するのはそう難しくない――――と思われるが、現実はそうではない。
ビラシオ街も王国内では大きい街の一つだ。もしあの街にエンペラーナイトが滞在していたとするなら、闇ギルドの連中は手を出せなかったはずだ。ガブリエンデ領内で剣神が生まれ、護衛が一人もいないと暗殺者が知っている必要がある。
そのためには、国内の綿密な情報を知っておく必要がある。
俺が感じていた違和感は、それらの情報を情報屋くらいで把握し切れるだろうか? というものだ。
そこで導き出した俺の答えとしては――――国の中心部に、国を売っている者がいる。
そう考えれば全てがその通りになる。
まず、初めに姉の暗殺は、おそらくガブリエンデ家に味方になるように招待状を送ってる貴族がたくさんいた。父は距離の問題も相まってそれらを断ったが、それを敵対と認識したのだろう。そうでなければ、姉が才能を開花したのに一年も待つ理由にならない。
ビラシオ街の件は、ゾンビ魔物はあの日だけ目撃されてるわけじゃなかった。何日も前から目撃されていたのを鑑みると、内通者がいてビラシオ街近くに潜伏できていた。その上、逃げ道もしっかり用意していたのだから。
そして、次のピースである『黒薔薇病』。
レメを助けてからずっと調べてわかったのは、一年近く王都下層であるスラム街に広まっていた。もちろん、最初はごくわずかだった。それも姉の暗殺やビラシオ街の惨劇と時期が重なる。
そして、最後のビースである『エンギロウ一族』だ。
王国それぞれは暗殺集団を抱きかかえている。闇の者には闇の者で対抗するからだ。それは前世でも全ての国が秘密裏に行っていたことだ。異世界ならなおさらその色が強くてもおかしくない。
王国を
その全てのピースが揃った答えとして、俺が導き出した答え。それは――――国家転覆だ。
研究データを全てかき集め『影収納』に入れてその場を後にする。
洞窟にたどり着いた道に戻り、分かれ道を左に進む。
道中、全身がバラバラになった者が目に入る。切傷から
さらに奥に進むと、想像よりも広い地下町のような場所が現れた。そして、充満している血の匂い。
そのとき、一人の女性が俺の前に現れ跪いた。
「ダークさま。大変申し訳ございません。殲滅に時間がかかっておりまして……代わりに、こちらの証拠を押収しました。逃げた連中は
「それなら心配することはないな」
素早く書類に目を通す。偽名だが依頼主もやはり狙い通り『王国商会連合会』の連中だ。
『ダークさま! 至急、お伝えしたいことがございます!』
直接頭に響く声。これは俺が渡した補助魔法同士による念話だ。
『かまわない。報告しろ』
『はいっ! 王都中の人々が――――体に黒い斑点を発生させております! 商会の者の中にも多数発病しております!』
逃げたリンネによる仕業か。
黒薔薇病は感染病ではない。ただ、原液に触れれば、誰でも感染する。それがSランク冒険者ほどの実力を持った人物でさえも。
『わかった。報告ご苦労』
「ダークさま?」
「黒い斑点の病が王都中に広まったようだな。おそらく国中に広まる可能性もある」
「どうなさいますか?」
「問題ない――――計画通り進める」
「ははっ」
『
『ダークさま。はい。
『黒い斑点の病のことは聞いてるな?』
『聞いております』
『これより、黒い斑点の病気を「
『かしこまりました。計画通り進めます!』
俺と
黒い斑点の病気。通称『黒薔薇病』。
予想では『王国商会連合会』が作っていると思っていたが、それを通り越して、まさか闇ギルドが作っているとは思わなかった。これは思わぬ副産物だが、作り方さえわかれば、特効薬はいくらでも作れる。
イレギュラーもあったが――――全てが計画通りだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます