第49話 暗殺者、元友人の名を紡ぐ

 エンギロウの里へやってくる兵士たちと、エンギロウの暗殺者たちの戦いが始まった。


 見た目だけならエンギロウの暗殺者たちの圧勝に終わる――――はずだったが、残念ながらそうではなかった。


「ただいま~ダークさま♡」


「主。ただいま戻りました」


 返り血一滴浴びていないゼックスレメアインスイヴが帰ってくる。エンギロウの里は静寂に包まれていた。


「王国軍が本気で里を潰しにくるなんて珍しいですわね」


「ああ。こればかりはフィーアルナも読めなかったようだ」


「ただ殺されるために来たのではないでしょうし、王国軍にも――――」


 アインスイヴが続きを話そうとしたとき、王国軍の方から圧倒的な気配を放つ存在が現れ、エンギロウの暗殺者たちを圧倒し始めた。


 遠くからでも月明りで彼の豪快な剣戟が見える。


「まさかエンペラーナイトが制圧にくるとはのぉ……」


「まさかでもないわよ? だって、エンギロウ一族の強さは依頼者・・・も知っているはずだし、生半可な戦力を送っても返り討ちに合うだけだもの」


「それもそうじゃな。主。どうしますか? エンペラーナイトと戦いますか?」


 王国最強戦力の一つ、エンペラーナイト。以前出会ったエルヴィン・オルフェンズとは違う人物だが、彼と同等の強さを感じる。大剣の使い手のようで、背中に背負っていた大剣で薙ぎ払うと、屈強なエンギロウの暗殺者が一刀両断される。


「向こうがその気でなければ、戦う必要はないだろう」


「ダークさま? 逃げなくていいんですか?」


「逃げる必要もないだろう。目的は同じ・・・・・はずだから」


 遠目からだが六人の暗殺者が斬られるのが見えた。


 ふむ……長のゲンロウはすでに逃げたか……。いまから追いかけてもいいが、エンペラーナイトにいらない刺激を与えることになるので、それも難しい。


 エンペラーナイト率いる王国軍がやってきた。


「ん……? お前達はここの一族ではないようだな?」


「初めまして~こちらは私たちの主のダークさま。私はアインスイヴ、こちらはゼックスレメ。私たちはこちらのエンギロウ一族に暗殺されかかったから、お返しに来ただけですわ」


「ダーク……なるほど。お前がビラシオ街でアルヴィン殿と出会った冒険者だな?」


「ああ」


 エンペラーナイトは俺たちが立っている場所と遠くの里を見回す。


「噂は聞いている。まさかエンギロウ一族が壊滅しているとはな」


「途中で逃げた者がいるようだが、そちらは処分してくれたようで感謝する」


「うむ。あっちが本隊だったようだが、途中で一人だけ逃げたようだぞ」


「ああ」


「では我々の任務は終わったようだな。またいずれ」


 彼は軽く挨拶をしてその場を後にする。一緒に来た騎士たちも王国の精鋭たちのようで、一人一人強さが伝わってくる。


 こうして、エンギロウ一族は――――長を除いて滅びを迎えた。



 ◆



 翌日。


「は~い。全員集合~!」


 イヴの声に合わせて、地下訓練場に集まっていた人たちが彼女の前にやってきては、跪いた。


レイちゃん・・・・・からちゃんと説明を聞いたみたいね。偉いわ~」


 満面の笑みを浮かべたイヴの前に並ぶ者たち――――彼らは、エンギロウの里にいた長とエンペラーナイトに殺された六人を除いた全員・・・・・である。


「それでは貴方たちの覚悟を聞かせてもらうわよ。貴方たち――――こちらのアダムさまに命を捧げる覚悟はできたかしら?」


「イヴさま。我々元エンギロウ一族・・・・・・・・一同、これからアダムさまの配下として命を捧げます」


 彼らは本来ならエンギロウの里で全員が死んでいたはずだ。だが、死ぬ間際にイヴの糸術によって延命措置が施され、全員が死ぬ寸前で助けた。いや、厳密にいえば、全員一度確実に死んでいる・・・・・・・・・・。というのも、出血多量で死んだり、体が二つになった者もいる。彼らは間違いなく一度死んだ。


 だが人間というものは、心臓が止まって十分ほどで蘇生を施せば、命を吹き返すことができる。聖女アリサ曰く、胴体と頭が残っていて、死んでまだ十分以内であれば、復活はそう難しいものではないと言っていたが、その通りになった。


 昨晩。エンギロウ一族は全員死んだことになっている。それはエンペラーナイトを通じて、さらに依頼者・・・にも伝わっているはずだ。


 エンギロウの里は、彼らを救ってから全てを燃やし、こうして一晩俺の部下になるか、それとも二度目の死を受け入れるかの選択肢を与えた。


 その答えが今の彼らの姿勢で物語っている。


「我々一同。これからアダムさまのため、誠心誠意働かせていただきます!」


「うふふ。歓迎するわ~みんなは護衛としてナンバーズ商会に所属してもらう。以前にも話したように、普段アダムさまに接触しないように」


「かしこまりました」


 中にはまだ幼い子どもたちもいて、彼らは幼い頃から暗殺術や彼ら一族に伝わる秘術を学んでいたらしいが、まだ幼さは抜けていない。


「お前たちはもうエンギロウ一族ではない。だが、お前たちの血には忍術という呪いの力がある。その呪縛から解き放つ。お前たちに――――新しい名を与える」


 一度だけ出会ったことがある島国の暗殺者。あの者も引退して余生を楽しんでいた。何度か一緒に釣りを楽しんだりもした。もしかしたら……俺にとって唯一の友人だったかもしれない。


「お前たちの新しい一族の名を、カミカゼ神風とする。愛する者を守るために嵐となり、自身の手を血で染めた偉大な暗殺者の名を紡げ。お前たち一族の絆の深さは呪いではなく、祝福となるだろう」

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