第47話 暗殺者、引導を渡す?

 屋敷の外に広がる暗闇の中で戦っていたアインスイヴと暗殺者に指示を出していた者。きっとリーダーで間違いないだろう。


 ゼックスレメとしては全員まとめて片付けると言っていたが、屋敷に大きな被害を与えたくないとのことで、屋敷に入って来る暗殺者たちはゼックスレメが、外に残っているリーダー格の暗殺者をアインスイヴが相手することにした。


 暗殺者たちが屋敷に入るまでずっとアインスイヴと二人で部屋で待ちながら、彼らが屋敷の中に入ったのを見てからアインスイヴに転移魔法を使い、外に残っている暗殺者のところに送った。


 程なくして外で戦う音が聞こえ、二人を眺める。


 アインスイヴも俺もレメの稽古のおかげで以前とは比べ物にならない程に強くなった。アインスイヴに限っては自分の力をより理解して、盗賊に扮した連中を一方的に制圧できるほどに強くなった。


 そんな彼女と同等に戦えるだけでも相手が強いのがわかるが、それ以上に戦い方ではアインスイヴを遥かに上回る実力があるのがわかる。少なくともSランク冒険者のレメを狙った暗殺者なだけのことはある。


 どうやら女性だったようで、さらに彼女は不思議な才能を持っており、初めてみる力を使う。魔法に似ているが魔法とは根本から違う不思議な力。


 戦い方を見守っていると、アインスイヴを不思議な闇の術で捕まえて、強力な術を使い始めた。足を失っても冷静に相手に対応する様はさすがは暗殺者である。今まで何人もの暗殺者を見てきたが、彼女はその中でもトップクラスの実力を持っている。


 ――――だが、相手が悪かった。


 あのままアインスイヴと一対一で戦い続けたら彼女が勝てただろうけど、屋敷の範囲内に入り、俺の視界に入った時点で、彼女の勝利は――――ない。


 俺はアインスイヴとの繋がりを使い、彼女に転移魔法を使う。


 目の前に魔法陣が現れ、中から焦っているアインスイヴが現れた。


「ダークさま!」


アインスイヴ


 すぐに俺にすがるように抱き付く。


「ご、ごめんなさい……私……」


「心配ない。相手の強さは理解していたはずだ。彼女の足を奪っただけでもアインスイヴの功績は高いものだ」


「ダークさま……」


 アインスイヴも油断していたわけではないだろう。わざと彼女の術を受けたようにも見えたが、アインスイヴが避けられないほどに素早い術の展開だった。それくらい彼女がトップクラスの暗殺者である証拠でもある。


「それにしてもあれほど強い暗殺者がやってくるとは思わなかったな。どうだ? ラグナロクと比べて」


「えっと……さすがに向こうと比べると一段弱いですが、それでも強いことには変わりありません」


「そうだな。アインスイヴを追い詰めただけのことはある。それにあの術は非常に厄介みたいだな。術者ではなくターゲットから展開されているようだ」


「はい。発動を見て避けるのはほぼ不可能だと思います」


 やはりそうか……。


「ダークさま。私、まだ戦えます。もう一度チャンスをください!」


 負けたことに焦っているのか、はたまた戦い足りないのか。いや、前者に違いないな。アインスイヴはそういう女性だからな。


 彼女を安心させるために、被っている黒いフードを優しく撫でてあげる。姉から女性をなだめるときはこれが一番効くと学べた。


「ダークさまぁ……?」


「心配するな。アインスイヴの強さは誰よりも俺が知っている」


「っ……」


 そして彼女を残して窓から外に出る。あの日のように、体が陰に同化するかのように窓を開くことなく、その隙間から外に出て飛び降りる。


 前世なら自殺行為にも繋がるが、異世界であり、『黒外套』を装着しているだけで体が非常に軽くなり高くから飛び降りてもダメージは一つもない。


 屋敷の広場に降り立つと、さっきまでアインスイヴと戦っていた彼女が鋭い視線で俺を睨む。


 目や鼻、口、耳から一筋の血を流しており、アインスイヴに使用した強力な術の反動を物語っている。それくらい彼女もアインスイヴに対して本気で戦ったということだ。足を失ったこともアインスイヴが如何に実力があるかを示している。


「お前は誰だ?」


「珍しいな。アインスイヴには答えるより先に攻撃していたが、俺には質問か」


「……」


 時間稼ぎのつもりか。少しでも反応で負ったダメージを回復させるための。


 そのとき、屋敷の玄関が開いて二人が出てくる。ゼックスレメアインスイヴだ。その手には屋敷に入り込んだ暗殺者たちが気絶していた。


「っ!? デスブリンガー! やはり生きていたんだな……っ!」


 デスブリンガーというのはレメの裏の顔である。それにしても『黒外套』で意識を捻じ曲げているはずなのに、レメのことがわかるのは大した精神力だな。


「俺は『デスブリンガー』ではない。主に仕える忠実なしもべ『ゼックス』である」


「何を……くっ……さっきの女も生きていたか……」


 アインスイヴを睨む彼女だが、アインスイヴも鋭い視線を彼女に返す。


「女」


 俺の声に彼女の視線が俺に向く。


「何故彼を狙う」


「……」


「話すつもりはないか」


「当然だ」


「なら――――貴様ら一族もろとも、今晩のうちに殲滅するとしよう」


「っ!?」


 彼女の顔に焦りの表情が浮かぶ。


ゼックスレメ。彼女が住んでいる里まで案内せよ」


「かしこまりました。主」


「さ、させるか!」


 次の瞬間、暗い夜空に月の明かりを受けてキラリと光る細い糸が、彼女の体を包み込む。


「動けば殺す」


 アインスイヴの本気の声に女は動くことができず、歯を食いしばって俺を睨み続けた。

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