第46話 見習い女暗殺者と暗殺者
夜の闇に王都が包まれた。
明るい時間の賑わいが嘘のように静寂に静まり、虫一匹すら鳴き声を上げない闇に包まれた世界を走る影が六人。
彼らは王都の屋根の上を颯爽と飛び乗りながらとある屋敷を目指した。
言葉を発することなく、手の振り方で会話を交わす。暗い中、黒い装束でも彼らはお互いのことがしっかり見えていた。
ついにとある屋敷の前に着いた六人は、まだ灯りが付いている最上階の部屋を覗く。
そこには二人の男女がベッドの上で絡まっている様子がカーテンの越しに影が映っていた。
事前に打ち合わせしていた六人は、さっそく作戦に移る。
リーダーと思われる者が右手を前に掲げると、他の五人が地上に降りて庭の陰を走って屋敷に向かう。
部下の動きを目で追いながら、彼らが屋敷に到着して中に入ったのを確認して動こうとしたその時のことだった。
「あら~どこに行こうとしているのかしら~?」
妖艶な声が暗闇の中を照らすように響いた。
リーダーは、後ろを取られていたことに気付かず、戦闘体勢になって彼女を見つめる。
そこには不思議な黒い仮面を被っており、仮面から繋がるように後ろを広がる黒い外套があり、その先はボロボロになっていて、どこか不気味な印象を与えるものだった。
「私は
だがリーダーは彼女の問いに答えるよりも先に、手に持っていた十センチの刃を投げ込む。
暗闇を切り裂き、女の肉を斬るはずだった刃は――――そのまま空中で動きを止めた。
リーダーは冷静に現状を確認する。女の力によって投げた刃が止められた。ということは、あの刃は今度は自身を狙う猛獣になって返ってくるはずだと考える。
直後、リーダーが想像していた通り、刃は方向を変えて自分に向かって、さっきよりも遥かに速い速度で放たれた。
「マナー違反でしてよ? レディーに自己紹介なしで舞踏会に誘うなんて~」
「誘ってなどいない」
「あら。まさか女性だったとは。同業者で女性の方はそう多くないはずなのですがね~」
「お前は誰だ。どうしてこんな場所にいる? どうして私を邪魔する」
「じゃあ、お互いに一問一答で行きま――――しょうね?」
話していたはずなのに、彼女は一瞬でリーダーの目の前に現れて拳を振り下ろした。
リーダーもそれに反応してギリギリの距離で受け流しながら、彼女の腹部に蹴りを叩き込む。が、その足が届くことはなく空中で止まった。
足に伝わる感触から何かに縛られたのが感じられる。リーダーは目を凝らしてよく見てみると自身の足に数本の細い糸が絡まっているのが見えた。
「糸使いか……!」
「そうですわよ~じゃあ、次は私ね? ターゲットは誰かしら?」
「教えるはずもない!」
「え~答えないなんてマナー違反よ。なので――――足は持っていくわね」
次の瞬間、リーダーの左足に激痛が走り、彼女は思わず眉間にしわを寄せて歯を食いしばった。
瞬時に斬られた左足の根元を縛って止血する。
「すごい早業ね。でも最初から力をセーブしていた貴方の負けよ?」
リーダーは両手を不思議な形に合わせる。
「
彼女の手の中から現れたのは、まさに暗黒そのもの。周りの全てのモノを飲み込み、全ての視界を奪い、静止した世界を作り出した。
リーダーはそんな彼女の糸を見て内心焦っていた。隙一つなく、糸に触れたら最後、自分の居場所を知らせるようなもの。
「闇遁の術。黒敷鴉」
彼女の両手から大きな
暗殺者として、リーダーとなるまで多くの者を暗殺してきた。そのどれもが簡単な現場ばかりではなかった。だからこそ、彼女は
足を切り落としたことで、彼女がどこか自分を弱い者だと見ている『慢心』こそが、彼女の大きな弱点であると。
もし本来の形で戦えば、けっして遅れを取らない。そうでなければ、最強冒険者でありながら最強の暗殺者として名高いあの男に勝てるはずもなく。
リーダーは両手を激しく動かして印を結ぶ。
印術と呼ばれている忍術の一種の術は、強さによって結ぶ形と数が増えていく。一度目の印は簡単な下位魔法に相当する印術。二度目は中位魔法に、三度目は上位魔法に相当する。
彼女は
「闇と風の混合。闇風遁の術。虚空無尽」
暗闇に飲まれている
円状に広がった闇は中を圧縮させるようにぐるぐる回りながら、中にある全ての物質を潰していく。
自然界では聞くこともできないような不思議な音を鳴らしながら、その闇は空間そのものをねじり潰した。
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