第30話 暗殺者、細男の本気を引き出してみる。
戦士科の校舎は一階が一年生、二階が二年生、三階が三年生で構成されていて、普段の教室が存在する。
みんなまとまって同じクラスになると思いきや、クラス分けにされるようだ。
二年生と三年生も四クラスずつあるようで、一年生も四クラスに分けると書かれていた。
クラス順番はとくに決まってはいないが、Aクラスに強い者が集まり、Dクラスに行くに連れ弱くなっていくのが暗黙のルールらしい。弱い者が強い者に混じっても授業の邪魔にしかならないからのようだ。
「アダムさま~♡ 私、Aクラスは怖いの~Dクラスがいいな~」
「ん? わかった」
「アダムさまもこっちだよぉ~?」
「?」
「同じクラスにならないと嫌だよぉ……?」
「……」
すっと近付いてきたイヴは後ろにいる聖女アリサに聞こえない小さな声で「君は戦士才能じゃないんだから一番下でいいんじゃない? ねえ?」と言われた。
確かにそれも納得がいく。強い順番というより、高い才能順で並んだ方がいいかもしれない。俺は回復魔法系統なので、一番下のDランクに向かう。
「あ、アダムさま! 私もDクラスに入ります!」
「え~貴方もこっちに来ちゃうの~?」
「は、はいっ!」
「ふう~ん」
俺と聖女を交互に見たイヴは、小さくふふっと笑い、三人でDクラスに入った。
生徒は既に九人集まっており、それぞれ顔色を伺いながら、準備されている席に各々で座っている。意外にも誰一人お互いに知り合いはいないようだ。
「ねえ、ロスティアくんもいるみたいだよ~」
試験官に運ばれていた細い男も席に座っており、おどおどしながら周りの様子を窺っていた。
席は教壇から十二席が円状に並んでいて、手前から九つが埋まっている。
最初にイヴが座り、次は俺が、最奥には聖女が座る順番となった。イヴの隣は細男だ。
座ったとほぼ同時に一人の白髪で歩くのもおぼつかない老人が入ってくる。教壇に立つまで普通の人よりも時間がかかった。
「初めましてなのじゃ。わしはクラス担当のヘラルじゃよ。さっそく自己紹介をしてもらうかのぉ~」
緩い口調で席の一番端から自己紹介が始まった。
俺達と細男を除いた八人は意外にも貴族ではなく上級平民のようで苗字を持っていなかった。苗字は貴族だけが持つ権利だからだ。
聖女も苗字を名乗らなかったので平民組となる。俺とイヴ、細男の三人が貴族組というわけだ。
「じゃあ~さっそく~みんなの実力を見せてもらいたいのぉ~」
教室から訓練場まで移動する。当然、担任の爺さんの歩く速度が遅く、他のクラスの生徒達と担任と思われる教師が先導していく。
爺さんの後を追う俺達は嘲笑いながら他のクラスの者たちが通り過ぎていく。
ただ、男子生徒だけはイヴを見たとき、少し目を大きくして驚いていた。
訓練場は意外にもクラスごとに分けられているらしく、他のクラスの生徒はまったくいないまま、Dクラス専用訓練場になっていた。
「ではぁ、順番でぇ一人ずつ~対戦形式で~」
言われた通りに対戦形式で席順で戦い始める。
Dクラスらしく全員が才能はあっても素人同然の動きで木剣をぶつけ合う。才能があるということはスキルもあるだろうが、それほど大きな恩恵は感じない。
四組までが終わり、五組目はイヴと細男の番となった。
何故か細男が前に出ず、俺をちらちらと見つめる。
「あら? どうしましたの?」
「え、えっと……僕…………剣を持つと性格が変わってしまうんだ…………あまり女性に対して……剣を振り回すのは……よくないと思って……」
俺と変わって欲しかったのか。
「イヴさま。僕が変わりましょう」
「は~い♡ アダムさま♡」
俺は細男と対峙した。やはり何も気配らしいものは感じないし、強さもまったく感じない。普通の人よりも弱いとさえ思える。
だが入学時のテストでは凄まじい勢いを見せていたのは本物であることの証拠だ。
試験同様に長い木剣を握った細男は、おどおどしていた表情から一変して、傲慢とさえ思える表情に変わる。
――――自分が強いから弱者を見下す類のものではない。自分が負けることを想像しない、そんな傲慢な表情だ。
「いひひ……ひひ……ひ…………行っていいよね? 本当に? 大丈夫かな? ひひひ……」
剣を握ると人が変わるのは自覚しているようだが、それにしても随分と人格が変わるものだな。
それが才能によるものなのか、元々性格がそうなのかはわからないが、少なくとも得体のしれない強さを感じる。
そこで一つ試すとしよう。
「いつでもいいぞ」
「じゃあ……行くね!」
口角が吊り上がった細男は恐ろしいスピードで跳躍して俺に剣を振り下ろす。
『力上昇Ⅹ』で受け止めてみると、確かに見た目や伝わる雰囲気以上に凄まじい力を感じる。
たった一撃で、細男は体力切れを起こし、俺の方に倒れ込んできた。
彼を受け止めながら、『俊敏上昇Ⅲ』を打ち込んでみた。スタミナがないなら補助魔法で増やしてやれば動けるはずだ。
次の瞬間、増えたスタミナを感じたのか、そのまま俺を突き飛ばしながら後ろに大きく飛び跳ねた。
「あれ……? いひひひ…………何か、今日は元気かな~?」
「そんなものか?」
「うふふ。今日は元気みたいだからね……僕、君をギッタンギッタンにしてやりたいんだ~いひひ!」
今度こそ
攻撃は全てが素直なものばかりだが、一撃一撃が重い。
大振りの攻撃でも自身の速度に任せた攻撃で押し切る。
攻撃も何もかもが傲慢そのものだ。
武器も本物の剣ではないものの、長くて細い刀身を持つ剣を使いそうな立ち回り。自身の能力をよく知っているからこその選び方だと感じる。
「あれれ~? 今日は調子がいいな~」
戦いながらもまるで他人事のように、視線は俺ではなく周りを見ている。なのに剣戟の筋はしっかり俺を狙ってくる。まるで見えない何かに操られているかのような。
何度か打ち合った後に『俊敏上昇Ⅲ』を解除すると、行き場を失ったタオルのようにその場に倒れ込んだ。
「ほっほっほっ。若いのは元気がいいのぉ~」
「……」
この爺さん……さっきからそのセリフばかりだな。しっかり見届けている気配もなければ、戦士として鋭い眼光を感じるわけでも、強さを感じるわけでもない。
俺は細男を担いで観覧席の方に移動する。
「ありがとぉ……」
「ああ」
「その、さっきはごめんね? ギッタンギッタンにするなんて言っちゃって」
「かまわない」
「え、えっと……確かアダムくんだったよね?」
「ああ」
「ふふっ。君のような優しい人がクラスにいて嬉しいよ」
「そうか」
次はイヴと聖女の番となった。
聖女は俺と同様に魔法で身体能力を上昇させてイヴに殴りかかるが、速度はあっても直線的な動きにイヴが当たるはずもなく。
ひょいひょいと全ての攻撃を避けられてもなお、聖女はがむしゃらに攻撃の手をやめなかった。
「ほっほっほっ。若いのは元気がいいのぉ~」
爺さんは笑顔でそう話したが、とてもじゃないが訓練を見ているとは思えないほどに目の焦点が合っていなかった。
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