第24話 暗殺者、姉が世話になった人に会う。
「ふっふふん~♪」
姉と会うのも久しぶりだが、こうして一緒に出掛けるのも久しぶりだな。
一年前と変わりなく定位置である俺の左手と手を繋いで嬉しそうに歩く姉。さらに右腕にイヴが抱き付いて中々窮屈で自由に身動きが取れなくなっている。
少し紙を伸ばしたのか、ポニーテールでも腰まで届いている髪が揺れるとたまに俺の腰にぶつかる。
上層にある屋敷から歩いて、中層を目指す。
中層にある大通りに出ると大勢の人が歩いている。その視線が姉とイヴに注がれるのがわかる。こうして歩いているだけで注目を浴びる。
姉はまだいいとして、イヴは暗殺者になろうとするなら、こうして目立つのは不都合だと思うが……本人は全く気にする素振りすら見えない。気付いていないはずもないのに。
大通りから着いた中央広場は広いスペースがあり、決められた場所には屋台のようなお店が出ている。さらに中央広場を囲うように高い建物が建てられている。
その中に一つ目立つ建物がある。ビラシオ街で何度も通った冒険者ギルドと似た作りの建物。出入りしている連中もいろんな武器を持った人達である。
「アダムさま。冒険者ギルドはどこの町でもわかりやすくするために建物は似た作りにするのです」
なるほど。どこの町でも問題なくさせるのはいい考えだ。前世でもお店の看板を同じ作りにすることで場所を知らせることができていて、印象もあり、どこの町に行っても看板を見つけただけで目的がわかるように印象操作をしていたからな。
「アダムちゃん? 冒険者ギルドは初めて?」
「い――――」
「はい! お姉さま。アダムさまと私、初めてなんです~」
「じゃあ、私が案内するね!」
姉は勢いよく冒険者ギルドの門を開いた。
中はビラシオ街の冒険者ギルドよりも三倍は広い作りになっており、カウンターだけでも数十か所あり、受付嬢が何十人も並んでいる。依頼掲示板も数倍多く横にズラリと並んで大勢の冒険者達が依頼を探して目を光らせている。
さらに一角には酒場よりも盛り上がってそうなくらい冒険者達がジョッキを片手に楽しそうに何かを話していた。
が――――その場にいる全ての冒険者達の視線が玄関の姉に集中する。
「アダムちゃん! ここが王都の冒険者ギルドなの~こっちこっち~」
視線など気にすることなく中に入る姉の前に一人の巨漢がはだかる。姉がぶつからないように走る姉の手を優しく引いてこちらに手繰り寄せる。
「あ、アダムッ!?」
「姉上。前は見て歩かないと危険です」
「う、うん……ありがとぉ……」
巨漢は俺と姉を交互に見下ろす。
「おいおい。冒険者ギルドはお前達みたいなガキが遊びにくる場所じゃねぇぞ」
「遊びじゃないわ! お家を守ってくれる人を雇いにきたのよ?」
「雇いだぁ?」
「それに私たちはガキじゃないわよ? 少なくとも――――貴方よりは強いわよ」
「ぷははは! がーははは! 俺様より強いだ? 小娘の分際で?」
「ええ」
「ほぉ……そこまで言うのなら、俺様に――――」
顔を真っ赤にした巨漢と姉の間に一人の女性が割り込む。
「やめとけ。この方には勝てるはずもない」
「あん? ――――あっ……り、リゼさん……」
「この方はあまり容赦を知らない方だ。痛い目に遭う前に変なちょっかいはやめとけ」
「は、はい……」
巨漢は肩を落として離れ、その様子を他の冒険者達が見つめる。
「はあ……ソフィア様? どうしてこのような場所に?」
「リゼたん~おっひさ~こちらは私の弟のアダムちゃんだよ~」
「ん……? いつも話されていた弟君ですか。ふむ…………聞いていたようなソフィア様より強そうにはみえないのですが……」
「そんなことないわよ? アダムちゃんは世界で一番強いんだから!」
「あぁ……そういうことでしたか。やっと理解出来ました。初めまして。私はリゼ。しがない冒険者をやっております」
「アダム・ガブリエンデと申します」
紫色の綺麗な髪をショートに揃えた大人らしい彼女は、百の人が美女と答えるほどに容姿が整っている。ただ、容姿のことなんかよりも気になるのは――――彼女の強さだ。
最上級才能である『剣神』を覚醒させていて、まだ齢十四歳でもすでに俺が知っている人の中で最も強いとわかる。
それに対して全く引けを取らないのが目の前の彼女、リゼという女性だ。
「リゼたん! 今日から弟の屋敷で私も一緒に住むんだけど、屋敷を守ってくれる警備員を雇いたいの~誰かおすすめの人はいない?」
「なるほど。ちなみにどれくらい強い人がよろしいですか?」
「えっと……」
困ったように振り向いて俺を見る姉。
「Cランク冒険者くらいを想定しています」
「Cランクですか……う~む。思い当たる人の中に紹介できそうな人はいませんね……う~ん。条件などを聞いてもよろしいでしょうか?」
「失礼します。アダムさまの代わりに屋敷の家計簿を任されているルナと申します。条件の件ですが、この程度を予定しております」
「条件は破格ですね……本当にこの条件でよろしいですか?」
「はい。全てアダムさまの意向ございます」
「…………わかりました。この額ならCランクと言わず、Bランクでもいいでしょう。ただ警備員となると通常冒険者よりは、王都に身を置いている者か引退者がおすすめです」
「はい。引退者の中で三名ほど紹介頂けたら幸いでございます」
「わかりました。この件は私が責任を持って探すとしましょう」
「ありがとうございます。失礼だとは思いますが、リゼ様は『紫焔の魔導士』だと思ったのですが……」
「あら、私の通り名を知っていられるなんて、光栄です」
「こちらこそ、貴方さまのような素晴らしい冒険者に会えて光栄です。貴方さまほどの冒険者がどうしてこの件に……?」
「ふふっ。普段なら気にもとめませんが、ソフィア様の家でしょう? 彼女には少しでも恩を売っておいて損はないと思いましたから。それに――――」
彼女の視線が俺に向く。
「アダム様からも不思議な力を感じます。それにこの条件が出せるほどのクライアントであるアダム様なら、これを機に近付けたらなと思った次第です」
「なるほど。いらぬ詮索だったようで申し訳ございません。ではこの件はよろしくお願いします」
意外にも話がトントン拍子に進んだ――――と思ったそのときだった。
一人の小さな男の子がリゼさんをじっと見つめる。涙を浮かべた目だ。
「あら、ルインくん? どうしたの?」
「リゼお姉ちゃん……おじいちゃんがまた……」
「大変ね~ごめんなさいね。ちょっと野暮用ができたので、片づけたらすぐに一件に取り組みます」
「リゼお姉ちゃん? 何だかいつもより……熱が酷いの……」
「っ……急ぎましょう」
彼女達の後ろを見つめる姉は気になるようだ。
「姉上。気になりますか?」
「えっ? え、えっと……」
「リゼさんにはいろいろお世話になっているのではありませんか?」
「へ? う、うん……すこ…………ううん、たくさんお世話になってる…………」
何となくリゼさんが俺達の警備員探しに協力的なのは、姉を心配してのことだと感じた。姉と彼女の間に何があったのかは後に聞くとして、今は姉の背中を押してあげることにする。
「姉上。気になるなら追い掛けましょう。受けた恩義は恩義で返すべきです」
「うん! いつもアダムちゃんが言ってる言葉だよね! でも……私に何ができるんだろう……」
「まだ何があったかわかりません。確認もせずに悩む前に、何があるのか見てから考えた方がいいと思います」
「そうだね! やっぱりアダムちゃんは世界一すごいよ!」
世界一……?
ニコッと笑顔を浮かべた姉はまた俺の左手を引いて、リゼさん達の後を追い掛けた。
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