第23話 暗殺者、一年ぶりに姉と再会する。
シャリアン街から北に向かうとビラシオ街がある。そこまで馬車だと通常五日ほどかかる。さらにそこから馬車を走らせ北東を目指すと、王国の中央に位置する王国で最も栄えた場所である王都が現れる。シャリアン街から王都までは大体十二日程の日数がかかるが、馬車や天気によって差が出たりする。
俺達はというと、普段は『転移魔法』でビラシオ街で活動しているが、場合によっては馬車に顔を出さないと御者に怪しまれる場合がある。
そのときの対策として使っているのが、黒光魔法『念話』である。本来『念話』は誰かに声を届ける魔法で多くの魔力を使ったり制限が多いが、俺の補助魔法を介することで簡単に使えることができた。
俺やイヴ、ルナ、ミア、商会の従業員たちに与えた補助魔法。それらを使えばいつでも『念話』を送り合うことができる。それらを使い、時間になったらミアに呼んでもらい馬車に戻って御者の目を騙している。ミアには毎回新しい本を渡して暇つぶしをしてもらったが、意外にも本人は本を読むのが好きなので退屈ではないらしい。
馬車を止めてパラソルが付いたテーブルや椅子を設置して、ミアが用意してくれる昼食を食べる。外でも食べられるのは魔道具の発展のおかげだが、これも貴族しか恩恵はない。
そんな日々を送りながらやがて王都にたどり着いた。
入学まで少し日にちがある。先にやるべきことをすることにする。
できるなら貴族層で部屋を借りたり買えたらいいのだが、相当な額が必要であり、必要性を感じない。さらにダークとしての活動も少し考えると、貴族層よりも上層に住んだ方がいいと考えた。
さっそく上層にあるとある家にやってきた。
「「「「お帰りなさいませ! ご主人様!」」」」
四人のメイドが深々と頭を下げる。彼女達はこの屋敷で雇ったメイドである。
「本日から学園を卒業するまでここで過ごす。よろしく頼む」
「「「「かしこまりました!」」」」
「これから指揮はこちらのミアが執る。ミア。メイド長として励んでくれ」
「お任せください。アダム様」
メイドや家事のことはミアに任せればいい。
荷物も全てメイドたちが運び、俺は自分の部屋とイヴの部屋を確認する。ルナの部屋は一応メイド側に存在するが、基本的には俺と同部屋になる。屋敷での生活を崩して変に怪しまれるくらいならこっちの方がいいと判断したからだ。
上層では非常に住みやすい屋敷になっており、風呂場も広いし、魔道具も一通り揃えたので過ごしやすくなっている。
普段の護衛は俺とイヴがいれば何とかなるが……入学して授業中はいないので、護衛を雇わないといけないな。
「イヴ。屋敷の守りができる人を雇いたい」
「学園に行ってる間のぉ~?」
「ああ」
「それなら~冒険者ギルドで雇ってしまうのもいいんじゃない?」
なるほど。冒険者か。
「現役を引退して冒険者にそういう仕事を斡旋したりもするからね~引退するまで活躍しているなら信頼できるしね~」
「では、今から冒険者ギルドに向かう」
「待って~♡」
「?」
「明日からお姉さまが来るんでしょう?」
「ああ」
「それならお姉さまも連れて行った方がいいわ」
ずっと寮生活だった姉。俺が屋敷を購入し、そこから通うことを伝えると、姉も一緒に暮らすという。部屋はまだまだ空いているので問題はない。
「わかった」
理由は知らないがまだ入学するわけでもないので、姉が来てからそうしよう。
今日は何事もなく眠りについた。当然のようにルナに加えてイヴまでベッドに潜り込んできた。これも屋敷と変わることはないんだな。
翌日。
朝一で外にドーンと何かが落ちてくる音が響き渡る。爆音と地響きに目を覚まして起き上がる。
「うぅ……何よぉ……」
「ふああ…………アダムさまぁおはよう……ございますぅ……」
イヴもルナも眠そうな目を擦りながら起き上がる。
音が聞こえてから約十秒。
外からダダダダッという何かが走る音がどんどん近付いてきて、部屋の扉が勢いよく開いた。
「アダム~ッ! お姉ちゃんだよ~! 久しぶりのお姉……ちゃ……んだ…………ょ」
そこには一年ぶりに会う姉は、水色の綺麗な髪を一本にまとめてポニーテールにしていて、制服と思われる白色を中心に青色の模様が入っている衣装を着ている。
「姉上。お久しぶりです」
「…………アダムちゃん」
「はい」
「…………わ、私は……毎日……アダムが来る日を……待っていたのに…………アダムはあああああ~! どうして女の子と寝ているのよおおおおお~!」
姉の大きな声が部屋と廊下に響き渡る。
「姉上。手紙でもお伝えした拾った令嬢と拾ったメイドです」
「手紙では一緒に寝てるって書いてなかったわよ!?」
「重要だと思わなかったので、記載しませんでした」
「重要よ~! こ、これだと……私が一緒に眠れないじゃない!」
何故か怒っている姉に、イヴが微笑みを浮かべて近付いていく。
「初めまして。わたくし、イヴ・ヴァレンタインと申します。お姉さま」
「……アダムちゃんの姉、ソフィアですわ」
「何か誤解があるようですが……お姉さま。実は……」
「ん?」
イヴが何かコソコソと姉に耳打ちをする。
最初こそ警戒していた姉の目が大きく見開いて、俺を見つめる。
「アダムちゃんが……」
「お姉さま? ですので、これから毎日アダムさまの隣で眠ってくださいませ。もしお邪魔なら私は自分の部屋で眠りますから……」
「ダメよっ! 一年間アダムちゃんを支えてくれたイヴちゃんがそれでは……これから共にアダムちゃんを支えましょう?」
「お姉さま……わたくし…………お姉さまと共にアダムさまを支えます!」
「うん! よろしくね! イヴちゃん!」
「! は、はいっ!」
さっきまであれだけ敵対心をむき出しにしていた姉は、イヴの両手を握り嬉し笑みを浮かべる。
こちらにやってくる二人。イヴは俺にウインクを送る。
…………女性の心というのはよくわからないものだな。
「姉上。これから屋敷を守る冒険者を雇おうかと思っております。ご一緒しますか?」
「行く~!」
「学園はよろしいのですか?」
「大丈夫~私はもう二年のカリキュラムは全部終わらせてるから~」
「わぁ……お姉さまってとっても優秀な生徒さんなんですね! 王都学園のカリキュラムは難しいと有名ですのに……」
「えっへん! これでも主席だからねっ!」
「すごいです! 学園主席と知り合えるなんて夢のようですわ!」
「何かわからないことがあったら何でも聞いてね!」
「はい!」
「でも――――」
「はい?」
「――――別に私が教えなくてもイヴちゃんなら主席取れるんじゃないの?」
一瞬姉の鋭い視線がイヴに突き刺さる。
「おほほ……いえ。わたくしはそんな大した者じゃありませんから。何とかギリギリに受かれるように頑張りますわ~」
「そう? まあ、そうしたいのはその人の自由だし、いいと思う!」
イヴ。表面上は何ともないように見えるが、内心は相当焦ってるのがわかる。姉も一年見ない間にずいぶんと強くなったものだな。イヴほどの強者を一目で見抜けるのは、実力が追いついたからなのか、才能の嗅覚なのか、はたまた偶然なのか。少なくとも姉が成長できるほどに学園はよい学び舎であることは確実。俺もこの世界で強くなるためにどうすればいいのか学んでいきたいと思う。
姉の予定も問題ないようなので、イヴの提案通りに姉も連れて俺達は王都の冒険者ギルドに向かった。
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