第11話 暗殺者、路地裏に呼ばれたのでボコボコにする。
「いらっしゃいませ! ダークさま!」
満面の笑みでそう話す受付嬢。彼女は冒険者ギルドに来たとき、初めていろいろよくしてくれた女性だ。年齢は二十代前半で笑顔が素敵だと評判の受付嬢だ。
「今日も素材買取ですか~?」
「ああ」
「ふふっ。では案内しますね」
他の冒険者は案内などしないのに、どうしてか俺だけはいつも彼女が案内をする。それを良かれと思わないのか、何人もの冒険者が俺を睨む。
いつもの買取窓口で狩ってきた魔物を大量に出す。
「相変わらずの量だな。これダークくんが全部一人で倒しているんだろう?」
買取窓口のおっさんも最近は気さくに話しかけるようになった。
「ああ。鍛錬の一環でな」
「ったく。才能あるやつは本当すげぇな。それはそうと前回来たときの分、彼女から受け取ってくれ」
「ああ」
素材は俺がガブリエンデ領に住んでいることがバレないように、いろんな地域の魔物を倒すようにしている。
一角兎やフォレストベアだけでなく、灰色狼やグリーンスパイダー、アーススネークなど。いろんな素材を売ってお金に換金する。
異世界のお金は全てが貨幣になっており、種類は小銅貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、白金貨の七種類。中でも、上の金貨と白金貨だが、金貨は貴族御用達、白金貨は国間の貨幣になる。
貨幣の価値は、主食となるパン一つが銅貨一つがメインで大体の食糧は銅貨一つが中心となっている。野菜類や小麦の単位などで小銅貨を使うが、あまり使う人はいない。
小銅貨十枚で銅貨一枚、銅貨十枚で大銅貨一枚、大銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、金貨千枚で白金貨一枚となっている。
平民は基本的に銅貨、大銅貨、銀貨がメインで取引されており、商会の大口取引は銀貨や大銀貨がメインで取引され、貴族間では金貨が取引されたりする。
各街にもよるが、宿屋は雑魚寝部屋一泊で銀貨一枚、狭い個室で三枚、テーブルが置かれているくらいの個室で五枚、シャワーなどが完備されてると八枚から大銀貨一枚ほど、その上に上級宿屋となるとどんどん値段が上がっている。
両替は冒険者ギルドもしくは商会ギルドで簡単に替えてくれ、専用窓口もあり、迅速に対応してくれるので待ち時間はほとんどない。これは王国を上げて対応している政策らしい。
「こちらが今回の報酬金です」
そう言いながら貨幣が入った袋を受付テーブルに上げる。十枚程度なら重みなど感じることないだろうけど、その袋は彼女が両手で上げるほどで今でもパンパンで弾けそうなくらい大きい。
「ダークさまからお願いされた通り、銅貨と大銅貨を多めにしておりますよ~」
「ありがとう」
ずっしりとした袋を受け取り、目の前で『影収納』の中に入れる。
「いつ見ても『アイテムボックス』ってすごいですね……!」
やはりこの力は『アイテムボックス』というスキルに見えるらしい。世界的にも非常に有名なスキルで、俺の『影収納』よりもずっと便利なはずだ。
「またのお越しをお待ちしております!」
「ああ」
冒険者ギルドを出て、今日は街で昼食を食べようとしたとき、後ろから睨む気配を感じる。
「おいおい。あんちゃんよ」
大柄の男が四人、俺を囲む。
「何か……?」
「最近羽振りがいいじゃねぇか。ちょっとツラ貸せや」
「…………」
彼らに連れられ、路地裏に入る。そこはとても懐かしく、表通りとは違いジメジメしている。何に使う用途かすらわからないボロボロの箱が乱雑に置かれて、穴が目立つ布やゴミが散乱している。
「あんちゃん。今日稼いだ額、今まで稼いだ額、全部出しな」
両手をごきっごきっと音を鳴らして威嚇する男たち。
いかにも――――小物感がある。前世でもこういう力任せで暴力で人を従わせるものが多かった。体が大きいのはそれだけで強さに直結したから。
だが……異世界では体の大きさは強さに直結しない。わが姉なんてまさにそれで、鍛えているから体は筋肉質ではあるものの、可愛らしい少女の体だ。だが、その実情は彼らなど一秒もあれば全身をバラバラにできるほどの実力を持っている。
「おいおい。怖すぎてちびってしまったかあ? ああん?」
蔑む表情で俺を見下ろす男は、自分が強者で俺を弱者として認識しているのがわかる。
人に悪意を向けるということは悪意を受けることも覚悟していることだ。俺が誰かを“暗殺”してきたように、自分が誰かに“暗殺”されるのを常に覚悟していた。それが功を奏したのか、異世界に転生した際に姉が暗殺されそうになったのを守る力になってくれた。
だが、前世で寿命を全うする間、俺は常に殺気を意識する生活を繰り返してきた。この男にも……そういう“悪意”と向き合っていく覚悟があるということだな。
「お前たち。冒険者ギルドにいた冒険者たちだな?」
「ああん? かーはははっ! そうともよ。お前の先輩ってやつだ。後輩は先輩に稼ぎを渡す義務があるんだ。大人しく出したらケガはしないぞ? お坊ちゃまよ!」
「規約にはそういったことは書いていなかったが……?」
「ちっ……わかりの悪いお坊ちゃまだな!!」
男は太い右腕を上げ、俺の顔面に向けて振り下ろした。
――――あくびが出るほどに遅い。拳が当たることを想像してなのか男は笑顔で拳を振り下ろす。それは初めてのことではなく、何度もやってきて慣れた手運びだ。そう思うと、今まで理不尽に殴られた人も多くいただろう。冒険者を志していたのに諦めた人だっていたのだろう。
実力社会。弱肉強食。結局は弱い者が悪い世界なのは前世も現世も変わらない。
男の拳をすれすれで避ける。当たるはずの拳が俺を通り過ぎて、俺と目が合い、瞳の奥に驚きの感情が芽生える。
――――このまま首を刎ねることも簡単だ。だが、どうしてか姉の悲しそうな表情が浮かび上がる。
前世なら自分を守るため向けられる悪意は全て排除していたし、それを今でも間違った選択や判断だとは思わない。
だが、いまもし彼の首を刎ねれば、俺は…………後悔する気がする。
俺が選んだのは、首を刎ねることではなく、男の腕を強打する。『筋力上昇Ⅲ』だけでも強力になるので俺の手刀が当たっただけで「ドゴーン」と衝撃波と音が響く。
「痛ってぇえええええええええ!」
後続がめんどうだったので、そのまま男の左肩と右太ももにも攻撃を入れておく。ボキッボキッと骨が折れる音が裏路地に響き渡る。
残り三人の男が仕掛けてくる前にこちらから仕掛ける。
男たちは見た目通りの弱さで俺の動きを目で追うことすらできず、手刀に反応することすらできない。もし反応できるなら叩かれる前に当たる場所の筋肉が反応を見せるはずが、それすら見えない。
四人の男たちが地面に転がった瞬間だった。
「こちらです! お願いします!!」
聞き慣れた女の声が裏路地に響いて、数人の足音とともに五人の男女がやってきた。
前方の四人は見ただけで冒険者だとわかる武器や防具を着用しており、男三人女一人のパーティーのようだ。そして、後ろでは声の主でもある受付嬢が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「あ……れ? 聞いていた話と……違う?」
パーティーの男は驚いたように俺を見つめる。
まさか…………これは冒険者ギルドが仕掛けたことなのか?
そのとき――――後ろから覗き込んでいた受付嬢がやってくる。
「ダークさま! ご無事ですか!?」
「ああ。問題ない」
「そうでしたか……いつか狙われるんじゃないかって心配になって……急いで強い冒険者さんたちにお願いしたんです」
なるほど。冒険者ギルドが仕組んだものではないらしい。むしろ、彼女は俺を心配してくれたのか。
「無事ならよかった。『アイテムボックス』を持ち、毎回大量の魔物を売っているから強いとは思ったが、ここまで強いとはな。さすがはダークさんよ」
「誰かは存じないが、駆け付けてくれてかたじけない」
「まじか……俺たち一応Bランク冒険者パーティーなんだがな……まぁそれはいいか。ひとまずこいつらは俺たちが冒険者ギルドに突き出しておくよ」
「ありがとうございます!」
受付嬢は何度も彼らに頭を下げて感謝を伝え、彼らは倒れた男たちを倒れたまま雑に足を引きずっていく。意外にも慣れた感じだ。
「助けを呼んでくれて感謝する」
「いいえ! どうやら私が心配しなくてもダークさまは十分強かったようです。余計なことをしてごめんなさい」
少し申し訳なさそうな表情をする彼女。そんな卑屈になる必要はない。彼女の優しさで、もし俺が弱かったら助かったことになるから。
前世で引退後に住み着いたとある島国では、人々がとても温かかったのを覚えている。住民たちから学んだことは「もらった恩義は恩義で返す」というもの。
現状は助かったわけではないが、その想いを無下にするのは母や姉にも怒られかねない。
「あのままでは放置するわけにもいかなかった。すごく助かった。もしよろしければ、食事をおごらせてもらえないか?」
「えっ……? あ、あ、あの…………い、いいんですか?」
おどおどする彼女に「ああ」と頷く。姉ほどではないが、嬉しそうに笑顔を浮かべて「はい。ぜひ!」と、ちょうどこれから昼食を取るということで、彼女おすすめのレストランにした。
フレッシュパスタのような野菜をふんだんに使用したパスタはどこか懐かしい味がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます