泣かない季節
藤泉都理
泣かない季節
そめいよしの。
なんきんはぜ。
はなみずき。
まんさく。
ひゅうがみずき。
かつら。
いちょう。
あか。
だいだい。
もも。
ぎん。
き。
ちゃ。
むらさき。
あざやかないろ。
くすんだいろ。
こうようがまう。
ひらひらと。
こうようがまう。
かさかさと。
あきのおわり。
ふゆのはじまり。
たいようのぬくもりがこいしくなるきせつ。
とてもとても。
なかないときめたきせつ。
つよくつよく。
気が緩んだ時が危ない。
そう、例えば。
木枯らしが吹く中を歩いて凍えさせた身を、喫茶店や図書館、ショッピングモールなどのとても温かい建物に入っては、椅子に座って、ほっと一息ついた時。
これは危ない。
意図せず涙が零れ落ちそうになる。
だからそうならないように、顔だけはいつも力を入れているけれど、それでもだめだ。
泣かないでね。
君は言った。
絶対に泣かないでね。
約束した。
だから、泣かない。
だから、温かい建物には入らずに君を待つ。
凍てつくような風が時に激しく、時に静かに吹く中を。
公園のとても冷たい木のベンチに座って。
時に波を作り、時に波紋を作り、時に水面を作る池を眺めて。
自動販売機で売っている紅茶アイスをかじりながら。
足元で積もっては、時に空に舞い上がり、時に見えぬ地へ旅立ち、時に池に舞い降りる紅葉を見るともなしに見て。
曇天がいい。
日光は不要だ。
一年に一回。
帰って来る君を待つ。
信じられない。
君は言うね。
確実に。
このクソ寒い中、アイスを食べるなんて信じられない。
寒い季節はやっぱり、こたつの中に入って食べるのが醍醐味ってもんだろ。
泣かない為だよ。
そう返したら、君はなんて言うだろうね。
泣かない為に、身体を凍らせているんだ。
涙を凍らせているんだ。
君との約束を果たす為に。
気が緩まれば。
滂沱と涙を流してしまうからね。
泣かないよ。絶対に。
笑顔で君と再会を果たすんだ。
(2023.11.13)
泣かない季節 藤泉都理 @fujitori
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