迷子
邪な関係であることは承知しているが、それでも健康的な関係を築いた上で情事に臨むつもりであった。他の男共とは一味違う情事になると過信した私の考えは、いとも容易く瓦解し、彼女から特別視される機会を見事に逸した。ただひたすら、性を貪る獣の姿を体現する私の陰茎は、吐けるだけの気を吐く。
まるで自傷行為に及んでいるかのように目の前の彼女が遠く見え、身体は繋がっているにも関わらず、そこには計り知れない断絶があった。激しく乱れる息が益々、滑稽な恥知らずの汚名を色濃くし、取り返しの付かない彼女からの採点が待っているだろう。壁に埋め込まれた間接照明を時折、覗き込んだり、アンティーク調の古い時計の短針が動く瞬間を捉えようとするなど、意識はどこか散漫的で集中力に欠けていた。一人遊びに没頭するよりも、遥かに情感が伴わず、人工大理石の床の上を淫らな影法師が落ち、キョロキョロと周囲を見渡す様子は野生動物さながらの交尾を想起させた。
右も左も分からぬまま、必死に飛び込んだ森の中を彷徨い歩いているかのような暗中模索は、踵を返して帰路を辿ることも許さない。前進することでしか、事態は解決の折り目は迎えられず、ひとえに消耗した。私はそんな最中に、一筋の光りを見た。手を伸ばせば届きそうな距離まで近付くと、忽ち目が眩んで目玉が裏返る。
「はぁはぁ」
独りよがりな情事の果てに、私は投げやりにベッドに倒れ込んだ。すると、入れ替わるようにして彼女が上体を起こし、ベッドから離れていく。とりとめもなく目で追っていれば、部屋の隅から行って帰るまでの間に鞄が手に取られ、インテリアのような小洒落た丸テーブルの上に“それ”を置いた。
「これ、私のコレクションなの」
彼女がそう言うと、鞄の口を開いて天地を返す。ボロボロと木の実が落ちてくるかのように、歪な形をした影がいくつも落下し、丸テーブルの上で異音を鳴らす。
「トラビス、ジョニー、中川さん」
見聞として存在を知ってはいても、それを直接この目で見たことがなかった。女性の為に製造、販売されている玩具は、扇情的な感覚を催すものだが、私はベッドから跳ね起きてピシリと背筋を正した。先刻までの粗野な身持ちは霧散し、ひたすら彼女の一挙手一投足に気を配る。何故なら、私が今目の前にしているのは、男達が口を揃えて“勲章”だと口承する代物だったのだ。
彼女のお眼鏡にかなった男達の陰茎は、異国情緒に溢れた。私から向かって左から、種馬の如く黒々としながら太い血管が走り、日本人とは比較にならない長さを誇る。横に目を移すと、一気に国境を跨いだ。白い石から掘られた石像のように沈着がなく、折り曲げた第一間接でノックして材質を確かめたくなる。もはや芸術品めいた価値がそこにはあり、荘厳さを纏っていた。最後は、野武士の登場だ。威風堂々たる佇まいとその湾曲具合は、一振りの刀のようである。彼女に跪き、その鞘たる男がどれだけ優れているか。横並びになる他の陰茎と並ぶとより一層、際立った。
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