第23話 選択


 久しぶりに、天蓋付きの最高級のフカフカのベッドで眠ったアンジェラ。


(心は晴れないけど、すっごく体はスッキリしたわ〜〜!)


断じて、アルの家が嫌いとかいうわけではない。

ただただ、布団がよいのだ……。


(アル………どうしてるかな……。)


 家に帰ったら、扉が壊れていて、アンジェラがいないとなると、アルは心配するだろう…。



 誰もいない、この部屋でアンジェラは不安になった。時計を見ると、もうお昼すぎということがわかったので、とりあえず支度をしようと自分で着替え始める。


(……タイミングを見計らって、リエラにアルをここに連れてきてもらおうかしら……。)


『コンコンコン』

軽快な音が、部屋の扉から鳴る。


「おはようございます。お目覚めでしょうか…?」


この別荘の屋敷の侍女だろう。


「どうぞ。お入りになって。」


入ってきた侍女は、アンジェラが一人で着替えているのをみて、驚いたようだ。


「お嬢様?!お着替えでしたら、わたくしどもがお手伝いなさいましたのに!!?」


「着替えくらい、自分でできましてよ!?」

………と言ってから気がついた。


(そうだわ!!王城にいたときは、全部侍女がやってくれてたのだわ……。平民になって、すっかり忘れてた…。)



―――――――――――――――――



 下の階に降りて食堂に行ったアンジェラ。

 テーブルには、色とりどりの料理が並べられていた。


「おはよう。よく眠れたかしら?」


「はい。ですが……お母様はよく眠れなかったようですね…。」


母の目元に隈ができている。


「ストーカー…じゃなくて、お客人が来てたのよ…。」


「そうですか…。えっ………す、ストーカーですか?!」


「まあ、…気にしないでちょうだい。」


(気にするなという方が無理でしょうに……。)


「それで、これからどうするの?アンジェラ。」


母が鋭い目つきで聞いてくる。

何かしろと言いたいのだろう。

ゆっくりしろと言った昨日と、言ってることに凄い差がある……。


「……現時点での私の立場は、おそらく逆賊……でしょう。叔父様が、私を邪魔に思っているのは間違いないですわ。………昨日の襲撃のように、何かしら仕掛けてくるでしょう……。」


(だから、何もしないという選択肢はない。だけど、王位を奪うという勇気も私にはない…。)


「アンジェラ………逃げていても、永遠に勝つ機会はこないわ。そして、勝たなければ、負ける。そして、負ければ………死ぬわよ。王位を賭けた戦いなのだから。」


アンジェラは、カチャカチャと動かしていたナイフとフォークを置く。


「……私に、勝つ力はあるのでしょうか?」


母は、口角を少し上げて、悪巧みをしている少女のような顔をした。


「さあ?……あなたは、今まで何をしてきたのでしょうね?」


わかりやすい答えは、くれなかった。

だけど、覚悟をしなくては。


――――――――――――――


「リエラ!そこにいるんでしょ?」

「はい。ここに。」


音もなく、スーッと現れたリエラ。



「お願いがあるの。神殿の聖女ノエラ様に文をお願いするわ。それと……アルを探してくれないかしら?」


「畏まりました。文はこちらですね。………それから、アル様の方はどういたしますか?見つけ次第、こちらにお連れしましょうか?」


「…………彼の無事を知りたいだけ…。調べるだけでいいわ。」


(アルを、醜く汚い、こちらの世界に巻き込むわけにはいかない。)


アンジェラはこちらの危険で毒された世界に戻ると決めたのだ。

アルやレディー、それに村の人と過ごした時間は清く美しい時間。それらを、穢したくない。



アルが前に、市場で買ってくれた髪留めを外す。

髪留めに飾られているこの蝶のように、自由に飛んでいける生活には憧れていた。

だけど……。


「久しぶり、王女の私。」


鏡に向かって、そうつぶやいた。


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