第21話 別荘にGo!


 (村の皆さん、無事だといいんだけど……。)


「リエラ……彼らは大丈夫なのかしら…?いくら大人数とはいえ…。」

「問題ありません。大丈夫ですから。」


リエラは何か、大丈夫だという確信があるらしい。


「殿下、着きましたよ。」


 夜中、抱きかかえられて移動した先は、別荘だった。そう…体調を崩して、公の場に出ずに療養している母のいる別荘。


「リエラ……なぜここに??」


「上から聞いたのです。王女殿下が危険にさらされた場合は、ここが安全だと。」


「上……?」


「王女殿下の母上、皇后陛下の影の護衛をしている者のことです。」


(当然、お母様にも、『黒い鏡』の護衛はいるわ…。)



「アンジェラ〜〜〜!!」


薄い寝間着で、庭の石畳の小路を走って来るのは、見間違うことは絶対にない。


「お母様!?」


大きく手を広げて駆け寄ってきた母・皇后は、ギュ~っとアンジェラに抱きつく。


「怪我はない?大丈夫なの?!」

「はい…。お母様こそ、体調は……?」

「わたくしは…まあ、元気よ?」


(お母様は、公務を一切できないほど、体調が悪すぎるはずじゃ………。)


そのはずだが…、眼の前にいる母・レティシアは、少し痩せているとは言え、元気すぎるほどだ。

もちろん、喜ばしいことではあるのだが……。


「この話は後ほどね?ね? それより、紅茶を用意するから、そこの椅子におかけなさい。」

「…はい。」

 

 庭で、呑気に紅茶を用意しているお母様を見ながら、ふと疑問に思った。


「あの…私、追放されたのでは……??」


「……………ああ、あの鹿殿が………私は反対したのに…陛下が勝手にやったことでしょ?わたくしは関係ないわ。」


 どうやら、お母様はお父様の決定に納得していなかったらしい。


「しばらくここにいなさい。状況が急変したのは知ってるわね?」


「貴族派とラドルフ叔父様が王都を攻撃し始めたということは知ってますが……。」


(ノアが教えてくれたわ…。)


「いいえ、もう王城は、ラドルフの手におちてるわ。」


「…もうすでにですか!?ですが、叔父様が攻撃を始めたのは、つい数日前では…!?」


「何者かが手引きをしてたようよ。王城にまだ残っている人も、全員がラドルフに従っているわけではなく、まだ一部反抗しているようだけど…。」


「お父様は?」


「あの人なら、逃げたわ。今頃、どこかの公爵家の別荘にでもいるわよ……。」


 たしかに、王である父には、忠実な臣下である公爵と辺境伯がいた。彼らがいるからには無事であることは間違いない。


「ということは、今の王城は、叔父様が実権を握ってるということですね……。」


「そうね。まあ、わたくしは療養の身であることは知られているから、ここは安全よ。万が一ここを襲撃したら、ラドルフは敵を増やすことになるでしょう?」


 この別荘は、母の実家であるホワイエ侯爵家が所有している。ホワイエ侯爵は中立派なので、叔父様が攻撃をすることはないだろう。


「そうですね…。」

(……いろいろ、疲れた……。)


「アンジェラ、疲れてそうね。部屋を用意したから、今日は休みなさい。」

「わかりました。感謝します。」


 アンジェラは席を立ち、案内をしてくれる侍女について屋敷の中に入っていった。





アンジェラが去った後…。

昔からの馴染の侍女が紅茶を飲んでいた自分のもとにいそいそとやってきた。



「皇后様、テレスティオ公爵閣下が、お目通りを希望しておられるそうですが…いかがなさいましょう?」


レティシアは紅茶のカップをソーサーに戻す。


(………あのストーカー野郎、まだうちのアンジェラを追っかけてるのかしら…。)


「断りなさい。」


「……いいんですか?様。アンジェラ様にとっての最善を考えてくださいね…?」


 自身の乳母の娘で、幼い頃からずっとともに過ごしてきたこの侍女はレティシアの扱い方をよく知っている。


「厶ーーー。だって〜〜〜…、。娘のストーカーにどう接しろというのよ〜〜。」


「『むーー』とかいう皇后様が一体どこに存在するんですか……。」


「ここにいるわよ。」


「……では、お断りしていいのですね?」


レティシアは一通り考えてから、重い口を開いた。


「………いいわ。通しなさい。けど、アンジェラには会わせませんから!!」


「………畏まりました。」






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