第20話 黒い鏡


「誰!」

「しーーっ、お静かに。 外の者どもは殿下を狙ってます。」


音もなく現れた女性は…………。


「リエラ…?」

「はい。リエラです。お久しぶりです、王女殿下。」


 リエラは、王室から独立して存在している組織の『黒い鏡』と呼ばれる陰の護衛をする先鋭集団に属している。


『黒い鏡』に属する人間は、生涯にたった一人だけ、命に替えてでも護衛する王族の人間を選ぶ。

一度選んだ相手は、絶対に守り抜くのが、彼らの使命。


 そんな組織に所属するリエラが選んだのが、何故か………アンジェラだった。


「リエラ………てっきり、王族から離脱した私のもとから離れたのかと……。」


「私たちは、王室から独立した存在です。あなた様が王族であろうがなかろうが、選んだからには、命に替えても守りますので。」


「………もしかして、…今までずっといた……?」


「はい。最初から。」


「最初って……。」


「この家に来たときからです。」


(そ、そんな…ということは、私がアルとベッドの取り合いで、取っ組み合いをしてたり、くだらない事を話してたりするのを、全部黙って見たり聞いたりしてたのね!?)


猛烈に急に恥ずかしくなってきた。

なんとも、緊張感のない王女…いや、元王女である。



その時……。


「おい!次はこっちの家だ!開けろー!!赤い髪の女がいないかー!」


アンジェラのいる家の扉がドンドンと叩かれている。


「ちっ、もうここまで来たか……。もう少し時間稼ぎをしたかったが……。」と、リエラが舌打ちをする。


「おい。聞こえてないのか!!!開けろって言ってんだろ!!早く開けねぇと燃やすぞっ!!」

「もしかしているのか!?赤い髪の女が!!」


ごろつき達が、叫びながら、ついに家の扉を蹴り始めた。


(嘘でしょう!?赤い髪の女って、私!?こういうとき、どうすれば……。)


 とりあえず、頭に掃除用の布切れを巻いて思ってんけど目立つ赤い髪の毛を隠す。

 そして、今にも壊されて開きそうな扉に向かって、玄関においてた箒を構えた。


「リエラ…ここの扉が開いたら、逃げれるかしら?」


「…5秒。その時間を稼いでいただけましたら。」


「わかったわ。」



『バキッ!バンっ!』

木の閂が折れる音がして、鍵が壊され、扉が開く。


 ごろつきが入ってこようとするのを阻止するため、そして外に出るため、アンジェラは箒の先を男の鼻先に突きつける。


(……5)


「女?」


(……4)


「依頼の絵の女に、顔つきが似てるぞ。」


(……3)


「布をとれ!下賤の女!」


(……2)


男の手が、アンジェラの頭の布切れに伸びる。


(……1!)


「……触るんじゃないよ!人妻に!その子に触れたら、私達が承知しないよ!」


外を見ると、斧や鎌をもった村人が、ごろつき達を囲んでいた。


女将さんを先頭に、毎朝の洗濯仲間の奥さん方。

市場に連れて行ってくれたトムじいさんとその畑仲間。

毎朝挨拶をしていたご近所の強面のおじさん達。


「その子に指一本でも触れたら、この村から一歩も出れないと思え!」


おじさん達が、斧や鎌をごろつき達に突きつけ、

彼らの勢いに、ごろつき達も戸惑いだした。


その混乱の中、女将さんがアンジェラに耳打ちをする。


「今のうちに早く逃げな。あんたになんかあれば、アルくんに合わす顔がないのでね。」


それを、聞いてアンジェラはリエラに目配せをする。



「殿下。逃げます。」

リエラはサッとアンジェラを横抱きに抱えたかと思うと……。


「いきます。」

脱兎の如くリエラは駆け出した。遠く、遠くに。


アンジェラが目を回したのは言うまでもない。



―――――――――


長らくお待たせいたしました。本日から、更新を再開させていただきます。少しずつの投稿になると思いますが、応援よろしくお願いします!



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