第19話 待ち構えていたアル

久しぶりの投稿です。


―――――――――――――――――


「アン!!」


神殿の正面玄関を出たところには、アルが待ち構えていた。


「…アル??どうしてここに??」


「その…人から聞いて…。あ、その、レティー様が、一人で迷子になってて…。」


(あ、完全にレティーのこと忘れてましたわ!!レティが、アルに知らせてくれたのかしら??)


「レティーは大丈夫ですか??」


「はい。婚約者であるハサウェード子爵が連れて帰られました。今はルード家の屋敷にいらっしゃると思います。」


「良かった~!レティーには、次に会ったときに、謝らなくては……。」


そうぐるぐる考えていると、突然、アルが、ガシッとアンジェラの両肩を掴んで、


「…あの野郎………じゃなくて、その、何かされませんでしたかっ??!」


アルがやたらと必死の形相で、アンジェラに尋ねる。


「?別に何かされたわけではないのだけど…??」


コテンと首をかしげる。


「なら、良かったです。さあ、帰りましょう。」


神殿の上から、ノアがアンジェラたちを見下ろし、アルがノアを睨んでいたことにアンジェラは気が付かなかった。




「どうしたの?アル。様子がさっきから変よ??」


馬車の中、二人きりでいたのだが、普段お喋りなアルが珍しくおとなしい。


「あ、いえ。実は今夜予定があって………出かけないと行けないんです。」


「あら、残念。今日は割りと豪華な夕食を用意していたのだけど……。」


「えっ…?そ、その、もちろん夕食は食べてから出かけるから!」


慌てて付け足したアル。


(夜に出かけるだなんて、仕事が大変なのね…。)


「それと……帰る前に、すぐ目の前の市場に寄ってから帰らないかな?」


神殿を出てすぐのところには市場が広がっている。

アルが聞きながら、アンジェラの顔を覗き込んだ。


(………きれいなまつ毛ね……。って、何を、考えてるの!!? じゃなくて……。)


慌てふためきながら、アンジェラは平然をなんとか装った。

「い、行きましょ!も、もちろんよ!何を買いたいの?」


アルはにっこり笑って、歩き出す。

「見たらわかるよ。」


そして、その後……。

洗濯のときに長い髪が汚れないようにと、赤いアンジェラの髪に映える、金と青の蝶の細工がついた髪留めを受け取った。

アルからのプレゼントらしい。


「あ、ありがとうっ!け、けど、サプライズはビックリするわ…!」


「ふふ、サプライズは驚かせるものだよ。サプライズは嫌だった?」


アンジェラは全力で首を横にふる。

「そんなことはないわ!凄く嬉しい!」


微笑むアンジェラの横顔をアルはじーっと見つめていた。

アンジェラは幸せそうだ。


(幸せってこういうことかしら…。)


夕暮れの中、様々な人が行き交う混雑した道で、ドサクサに紛れて手を繋いで帰った。


ふたりとも耳まで真っ赤になっていて、混雑した道を抜けても、家につくまでずっと手を繋いでいた。





―――――――――――――――――――


「で?何の用なんだ?」


「いやいや、それは私のセリフでしょう…。こんな夜中に神殿の私の部屋に押しかけてきたのはそちらなんですから。」


「とぼけるなよ。腹黒。お前が何を考えているのかはだいたいわかってる。」


「…ほぉ?」


夜更けの神殿。

その中の、聖女の私室。


そこでは二人の男が語り合っていた。


「男聖女。お前はアンを唆して、利用するつもりだろう?」


「人聞きの悪い…私は、選択肢を王女様に与えましたよ?強要してませんから。ただ、お願いしただけです。」


「それを、強要というのだろう。」


「………だいたい、彼女が表舞台に引きずり出されるのは当然のことでしょう?直系の王室の唯一の跡取り。何を、今更………。」


「とにかく、絶対に彼女を巻き込ませない。」


「それは無理でしょう。すでに、動いてると思いますよ。あなたこそいいんですか?こんなところでのんびりしているなんて。」


「もとから手をうってある。」


(アンを、自身も護衛もいない状況で一人残すわけが無いだろう。)


「ならいいんですが。」


ノアは優雅に紅茶を一口飲んだ。


「………渋い。」







「見つけ次第、殺せ!」


村の家々に火の手が上がる。

火をつけられ、家からは人が続々と広場に出てきた。


「こっちにはいません!」

「次を当たるぞ!早くしろ!逃げられる!」


暴漢たちが馬に乗りながら、ドンドン火をさらに放っていく。


村のとある地区で、アンジェラは目を覚ました。

夜もかなり更けたことで、あたりはいつも静かなはずなのに、今日は近くから騒がしい音が聞こえてくる。


(アルが家にいないからただでさえ不安なのに………何があったのかしら…?)


気になって部屋を出て、玄関扉を開けようとした時。


「駄目です。外に出てはなりません。」


音もなく、一人の女性が扉の前を塞いだ。








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